会社を買う前に決算書をチェックする目的と見る順番

決算書は、会社のお金の状態を示す資料です。主なものは2つあります。貸借対照表(BS)は、決算日の時点で会社が持つ資産と、抱えている負債、その差である純資産を一覧にしたものです。損益計算書(PL)は、1年間の売上から費用を引いて、いくら利益が残ったかを示します。1期分だけでは一時的な数字か傾向かを見分けにくいため、3期分ほどを並べて変化を追うのが基本的な見方です。

決算書で探すのは「取り返しのつかないリスク」

「まずここを見れば大丈夫」という項目を3つに絞るのは、実際には難しいと考えています。案件ごとに事情が違い、1つや2つの項目では収まらないからです。代わりに持っておきたいのは、見る目的の軸です。M&Acompassは、取得した後に取り返しのつかないリスクが残っていないかを探し出すことを軸にしています。

買収前の調査(デューデリジェンス、DD)を行うか、どこまで調べるかも、譲渡価格の大小では決めません。価格が小さい案件でも、取得後に「予想外」が残っていないかを基準に判断します。決算書のチェックは、その予想外を減らすための最初の作業です。

0円・低価格の案件は負債→PL→定性情報の順に見る

0円や備忘価格(帳簿に形だけ残す1円などの価格)の案件では、次の順番で見ることをおすすめします。

順番見るもの理由
1負債の項目(BS)0円の理由は、債務超過や多額の有利子負債であることが多い
2損益計算書(PL)次に多い理由が、収益力の弱さ
3定性的な情報数字に表れない事業の状態を、面談や資料で確かめる

債務超過とは、負債が資産を上回り純資産がマイナスの状態です。有利子負債は、借入金のように利息を払う必要のある負債を指します。価格が0円でも、こうした負債を引き継げば実質の負担は0円ではありません。だからこそ、最初に負債を見ます。

M&Acompassの実務の視点

0円という価格には、売り手がそう決めた理由が必ずあります。実務では、その理由が決算書のどこに表れているかを先に探し、PLで稼ぐ力を確かめ、最後に数字に出ない情報で裏付けを取ります。順番を逆にして「安いから」と定性的な魅力から入ると、負債の重さに後から気づきやすくなります。

個人M&Aの流れの中でいつ見るか

決算書は、秘密保持契約を結んだ後に売り手から開示を受けることが多い資料です。掲載情報を読んで面談に進み、意向表明書を出す前後に、本格的に読み込む場面が来ます。流れ全体の中での位置付けは、個人で会社を買う方法|個人M&Aの流れ・期間・準備を一つに整理で確認してください。自分で読み込んで分かったことと分からなかった論点を整理しておくと、その後の専門家への依頼範囲も決めやすくなります。

貸借対照表(BS)で見る項目|負債・リース債務・個人保証

貸借対照表(BS)は、決算日の時点で会社に何があり(資産)、何を返す必要があるか(負債)を示す表です。株式譲渡では会社の資産も負債も原則としてそのまま買い手に引き継がれます。つまりBSは「取得後に自分が背負うもの」を確かめる資料です。ここでは見落とされやすい順に、負債・保証・資産の実物を見ていきます。

借入金とリース債務は同じ一覧で確認する

まず負債の部で、借入金の総額と返済条件(月々の返済額・残りの期間・金利・借入先)を確かめます。負債の合計が資産の合計を上回り、純資産がマイナスなら「債務超過」です。債務超過そのものより、取得後の利益と現金で返済を続けられるかを見てください。

次に、借入金と同じくらい重要なのがリース債務です。車両や厨房機器、複合機などのリースは毎月の支払いが続く債務ですが、リースを債務と認識していない売り手もいます。会計処理によってはBSに載らず、損益計算書の賃借料に紛れていることもあります。借入金とリース債務を、同じ一覧で出してもらってください。

確認する項目見る主な資料面談で聞くこと
借入金BS、返済予定表、金銭消費貸借契約書残高、返済の残り期間、担保・保証の有無
リース債務リース契約書、毎月の支払明細契約の残り期間、解約条件、中途解約金
役員借入金・貸付金BS、勘定科目内訳書譲渡時に返済・精算するか、その方法

役員借入金(社長が会社に貸しているお金)は会社の負債です。譲渡時に返済するのか、免除するのかで買い手の負担が変わるため、扱いを決めておきます。免除には税務上の論点が生じることがあるので、専門家に確認してください。逆に役員貸付金(会社が社長に貸しているお金)は、回収できるかを確かめます。0円や備忘価格の案件では、この負債の見方が判断の中心になります。0円で会社を買う方法|0円譲渡の実態と見極め方もあわせて読んでください。

代表者の個人保証と未払いの税金・社会保険料

代表者の個人保証はBSに載りません。借入金だけでなく、事務所や店舗の不動産の賃貸借契約で代表者が連帯保証人になっている例が多くあります。リース契約にも保証が付いていることがあります。契約書を一つずつ見て、保証の有無を一覧にし、取得後に誰が保証を引き継ぐのかを交渉の前に整理してください。

未払いの税金や社会保険料も丁寧に確認します。BSの未払金・未払法人税等・預り金の内訳を見るだけでなく、滞納がないことを証明書で確かめる方法があります。税金は税務署が発行する納税証明書で未納の有無を確認できます。社会保険料は年金事務所で納入状況の証明書を取ることができます。ただし、最初の資料依頼の段階でいきなり証明書の取得を求めるのは、売り手との関係を考えると早すぎることもあります。必要に応じて、買収前の調査(DD)の中で取得を依頼し、原本を見せてもらう進め方がよいと考えています。

M&Acompassの実務の視点

実務で見落とされやすいのはリース債務です。借入金は意識していても、リースは「毎月の経費」としか考えていない売り手が少なくありません。借入金と同じ一覧で出してもらうことを、最初の資料依頼の段階でおすすめします。あわせて、不動産の賃貸借契約などの個人保証も同じ一覧に載せると、取得後に残る負担が一度に見えます。0円・備忘価格の案件では、負債の確認と並行して、掲載文の段階で業績の推移も見ておくとよいと考えています。

在庫・設備は「実物」で確かめる

資産の部は、帳簿の金額どおりの価値があるとは限りません。在庫は売却できて初めて価値が出ます。できれば現地で実物を見て、売れそうか、古くなっていないか、劣化していないかを確かめてください。長く動いていない在庫は、価格の見直しや譲渡対象から外す交渉の材料になります。

建物附属設備・備品・什器は、帳簿上は小さな金額でも、取得後に修繕や買い替えが必要になることがあります。空調・給排水・厨房機器・車両などは、年式と直近の修理の履歴を聞き、近い将来に必要な費用を見積もっておきます。その金額を資金計画に入れ、必要なら価格の交渉に反映させる、という対策とセットで考えてください。

損益計算書(PL)で見る項目|本当の稼ぐ力と業績推移

貸借対照表で負債を確かめたら、次は損益計算書(PL)で「この事業にいくら稼ぐ力があるか」を見ます。小さな会社の利益は、社長の報酬や個人的な支出の影響を受けやすい数字です。決算書の利益をそのまま信じると、価格の判断を誤ることがあります。

役員報酬と社長個人の経費をどう見直すか

小さな会社では、次のような費用が利益に混ざっていることがよくあります。

  • 役員報酬(実態より多い、または少ない)
  • 社長が使う車の費用や交際費
  • 家族への給与
  • 社長の自宅を兼ねた事務所の家賃 など

買い手は、これらを「引き継いだ後も同じ額がかかるか」で分けて見直します。社長の個人的な支出なら利益に戻し、社長の働きを買い手や新しい人が担うなら、その分の人件費を引きます。法人の案件では、勘定科目内訳明細書を見ると、役員報酬や地代家賃の相手先と金額を確かめられます。

ここで大切なのは、売り手の説明を「主張」として受け止め、決算書・契約書・領収書などの証憑という「事実」で裏付けを取ることです。説明があるかどうかではなく、その説明が合理的で納得できるかを基準にしてください。

M&Acompassの実務の視点

価格が小さい案件ほど、買い手が自分で決算書や契約を読み込み、分からない論点だけを専門家に依頼する進め方が現実的だと考えています。費用を抑えたいときも、調査をやめるのではなく、自分で調べる範囲を広げて専門家に頼む範囲を絞る方向で考えてください。売り手の説明は丁寧に聞いたうえで、その裏付けを書類で取る姿勢が、取得後の「予想外」を減らします。

売上・利益の推移で「変化の理由」を確かめる

利益は1期分だけでなく、3期分の推移で見ます。見るのは金額そのものより「変化」です。

推移の形読み方
売上・利益とも横ばい稼ぐ力の目安にしやすい
売上も利益も減っている要注意のサイン。面談で理由を確かめる
売上は減ったが利益は増えている経費を削っただけでないかを確かめる
そもそも売上が立っていない要注意のサイン。事業が動いているかを確かめる

特に0円や備忘価格の案件では、掲載文を読む段階で業績推移を見ておきます。売上・利益が減少傾向にある案件や、売上が立っていない案件は要注意のサインとして扱い、面談で変化の理由を確かめてください。主要な取引先を失った、社長の体調で営業を縮小した、など理由はさまざまです。理由に納得できるかどうかと、その状態を自分が引き受けられるかは、分けて考えます。

自分で調べる範囲と専門家に頼む範囲の分け方

PLについて、自分で調べる範囲と専門家に頼む範囲の目安です。

  • 自分で調べる:役員報酬や経費の内訳、3期分の推移、契約書と費用の突き合わせ
  • 専門家に頼む:自分で読んでも理解できなかった論点、税務の扱いなど判断が分かれる点

こうして見直した利益は、価格の目安を考える土台になります。利益の何倍で考えるかは、M&Aの相場は利益の何倍?年買法と小さな会社の価格の見方・交渉で説明しています。

決算書だけでは分からないこと|別の資料との突き合わせと面談

決算書は、過去の結果を売り手の側で集計した数字です。売り手の説明は丁寧に聞きつつ、鵜呑みにせず、決算書・契約書・証憑(領収書や請求書などの裏付け資料)で事実を確かめます。説明は「主張」、資料は「事実」と分けて受け止めるのが基本の姿勢です。

裏付けに使う資料と依頼の仕方

案件の規模で依頼する資料を変える必要はありません。依頼すべき資料は依頼し、出せる資料は必ず出してもらい、買い手の側で事実を組み立てます。突き合わせに使う資料の例は次のとおりです。

資料決算書と突き合わせて確かめること
試算表(進行期分。理想は直近3期分も)決算後の売上・利益の動き。難しければまず進行期分だけでもよいが、DDの際には直近3期分も出してもらう
預金通帳の写し売上の入金、借入の返済、個人的な支出の有無
税務申告書一式勘定科目内訳明細書で役員報酬や地代家賃の相手先と金額
納税証明書・社会保険料の納入証明(必要に応じてDDの中で依頼)税金や社会保険料の未納の有無
契約書(賃貸借・リース・主要な取引先)個人保証、リース債務、解約や承継の条件
給与台帳人件費の実態、従業員の人数と勤務状況

このほかにも、案件の内容によって必要な資料があります。出せない資料がある場合は、その理由も聞いておきましょう。

個人事業の案件で特に注意する点

個人事業には法人のような決算書がなく、確定申告書とその添付書類(青色申告決算書など)が基礎資料になります。事業用と家計の支出が混ざりやすく、通帳も事業用と個人用が分かれていないことがあります。車や通信費など、事業と家計の両方に使う費用はどう分けているかを聞き、領収書や通帳で確かめてください。法人の案件より資料が少ないぶん、売り手の説明に頼りがちになる点に注意が必要です。

面談で確かめる質問の例

資料を読んだうえで、面談では次のような質問で確かめます。

  • 売上や利益が増減した年があれば、その理由は何か
  • 借入や賃貸借、リースなどで代表者個人が保証に入っているものはあるか
  • 税金・社会保険料・取引先への支払いで、未払いや遅れはないか
  • 決算書に出ていない約束事(口約束を含む)はないか

面談と資料で分かったことと、分からなかった論点を整理し、分からなかった論点だけを専門家に調査として依頼します。専門家に任せる範囲は、調査の実施前までに決めておけば十分です。調査の種類や費用の目安は、個人M&Aにデューデリジェンス(DD)は必要かを解説した記事で説明しています。

気になる点が見つかったとき|見送るか、交渉材料にするか

決算書を読み込むと、大なり小なり気になる点は見つかります。見つかったからといって、すぐに見送る必要はありません。判断の軸は「その点の影響度合い」と「買い手自身のリスク許容度」のバランスです。

影響度とリスク許容度で分けて考える

たとえば簿外債務(決算書に載っていない債務)が見つかったとします。この場合、「あった」という事実だけで決めるのではなく、金額や内容で判断が分かれます。金額が小さく、内容の重要性も高くなければ、許容できるリスクとして整理できることもあります。

もう1つ大切なのは、「理由に納得できること」と「自分がそのリスクを引き受けられること」を分けて考える点です。売り手の説明が合理的でも、取得後に資金や経験で対処できなければ、自分にとっては大きなリスクのままです。

問い見るもの
影響はどの程度か金額、続くかどうか、取得後に直せるか
自分は引き受けられるか手元資金、経営の経験、取得後に使える時間

M&Acompassの実務の視点

気になる点を見つけた時点で「見送る」か「進む」かの二択にしてしまう買い手が少なくありません。M&Acompassは、まず影響度合いを金額と内容で整理し、次に自分のリスク許容度と照らす順番をおすすめします。説明に納得できることと、そのリスクを引き受けられることは別の問題だと考えています。

交渉材料にするときの伝え方

引き受けられると判断したうえで価格や条件に反映したい場合は、伝え方が大切です。まず、売り手がその条件を出している理由や事情を理解してください。そのうえで、決算書や契約書などの客観的なデータを積み上げ、合理的に話すと噛み合いやすくなります。「不安だから下げてほしい」ではなく、「この債務の分だけ返済の負担が増える」と具体的に示す形です。

見送る判断の目安と記録の残し方

次のような場合は、見送ることも選択肢に入ります。

  • 影響が大きく、取得後に取り返しがつかない
  • 裏付けとなる資料が売り手から出てこない
  • 説明が途中で変わる、または合理的に説明されない

見送った場合も、見た資料・気になった点・確認した結果をメモに残しておくと、次の案件で同じ視点をすぐに使えます。決算書を十分に見ずに進めて起きる失敗は、M&Aの失敗例と防ぎ方で紹介しています。

個人の買い手向け決算書チェックリスト(まとめ表)

ここまでの内容を、貸借対照表(BS)・損益計算書(PL)・別の資料・面談の4つに分けて一覧にします。「★」は、0円・低価格の案件で特に優先して確かめたい項目です。各項目には、裏付けに使う主な資料と、分からないときに確認する主な相手を添えています。特定の資料だけでは分からないこともあるため、どちらも例示です。

貸借対照表の項目

項目裏付けに使う主な資料分からなければ確認する主な相手
★借入金の残高・返済条件返済予定表、金融機関の残高証明税理士、金融機関
★リース債務の有無リース契約書、支払明細リース会社、税理士
★代表者の個人保証・担保金銭消費貸借契約書、賃貸借契約書金融機関、貸主
★未払いの税金・社会保険料勘定科目内訳明細書、納税証明書・社会保険料の納入証明(必要に応じてDDの中で依頼)税理士、社会保険労務士
役員借入金・貸付金勘定科目内訳明細書税理士
在庫・売掛金の実在在庫表、実物の確認、入金のある通帳売り手、専門家

リース債務は会計処理によっては貸借対照表に載らないことがあります。未納の税金は税務署の納税証明書で、社会保険料は年金事務所の証明書で確認できます。証明書の取得は、最初の資料依頼でいきなり求めるのではなく、必要に応じて買収前の調査(DD)の中で売り手に依頼します。

損益計算書の項目

項目裏付けに使う主な資料分からなければ確認する主な相手
★売上・利益の3期の推移決算書3期分、試算表(進行期分。できれば直近3期分も)売り手(面談で変化の理由を質問)
役員報酬・社長個人の経費勘定科目内訳明細書、領収書税理士
主な取引先への依存売掛金の内訳、取引契約書売り手
地代家賃・修繕費の水準賃貸借契約書、修繕の履歴貸主、設備業者

別の資料・面談で確かめる項目

項目裏付けに使う主な資料分からなければ確認する主な相手
通帳の動きと決算書の整合通帳、試算表税理士
個人事業の数字の基礎確定申告書、青色申告決算書税理士
設備・備品の状態と買い替え時期現地での確認、修繕の見積書設備業者
許認可・契約の引き継ぎ可否許認可の証書、各種契約書行政書士、弁護士

個人事業の案件では、確定申告書と青色申告決算書などの添付書類が決算書に当たる基礎資料になります。

この表は出発点です。業種や取引の形によって、確かめるべき項目はほかにもあります。表にない気になる点が出てきたら、同じように「裏付けに使う主な資料」と「確認する主な相手」を決めて進めてください。

参考にした資料