意向表明書とは|トップ面談から提出までの位置づけ

意向表明書(LOI)とは何を伝える書面か

意向表明書(LOI:Letter of Intent)は、買い手が売り手に出す書面です。「この会社・事業を譲り受けたい」という意思と、希望価格・主な条件・今後の進め方を伝えます。売り手は、この書面をもとに交渉を続ける相手を決めます。複数の候補者がいる案件では、各候補者の意向表明書が比較の材料になります。

意向表明書のテンプレートは、M&AのマッチングプラットフォームやM&A仲介会社のサイトなどで入手できることがあります。書式そのもので迷う場面は多くなく、中身をどう詰めるかが要点になります。

トップ面談から意向表明書までの流れ

個人M&Aの流れの中で、意向表明書は次の位置にあります。

段階内容
1. 案件探しプラットフォームや紹介で候補を見つける
2. 資料の確認案件概要書や決算書などを読む
3. トップ面談売り手と買い手が直接会い、事業や意向を確かめる
4. 意向表明書の提出買い手が希望価格・条件・進め方を書面で伝える
5. 基本合意(MOU)双方が大枠の条件に合意する
6. DD(デューデリジェンス)買う前に財務・法務などを詳しく調べる
7. 最終契約・決済契約を結び、代金を支払って引き継ぐ

流れの全体や各段階にかかる期間は、個人で会社を買う方法|個人M&Aの流れ・期間・準備を一つに整理で整理しています。表は一般的な順序で、譲受条件が固まっていれば、意向表明書はいつ提出しても問題ありません。この記事では、3から4までの進め方と、意向表明書の中身に絞って説明します。

基本合意書との違いと出す時期の目安

意向表明書は、買い手が一方的に出す書面です。一方、基本合意書(MOU)は、売り手と買い手の双方が合意して取り交わす書面です。意向表明書が受け入れられた後に、基本合意へ進むのが基本的な順序です。

意向表明書は買い手が希望する譲受条件を伝える書面なので、条件がある程度固まったタイミングで出します。トップ面談の前に出しても問題はありませんが、実務では面談の後に、売り手や仲介者から示された期限までに出すことが多いです。期限が示されない場合も、面談から日を置きすぎると、他の候補者に先に進まれることがあります。面談で聞いた内容を整理し、確かめたい点を早めに売り手に問い合わせたうえで提出します。

トップ面談で個人の買い手が気をつけること

トップ面談とは、売り手の経営者と買い手が直接会い、人柄や考え方、事業への思いを確かめ合う場です。資料だけでは分からないことをお互いに確かめる機会で、売り手が買い手を選ぶ材料にもなります。流れ全体の中での位置づけは、M&Aの流れの記事で確かめてください。

トップ面談で売り手が見ているもの

売り手は、価格の前に「この人に任せて大丈夫か」を見ています。事業や従業員への関心の深さ、質問の中身、受け答えの誠実さに加えて、譲り受けた後に事業をどう伸ばすかの展望です。開示された資料を読み込まずに来ると、関心が薄いと受け取られやすくなります。

面談での質問は、会社や事業の理解を深めるものを中心にします。価格や引継ぎなどの取引条件は交渉ごとなので、面談の最後に簡潔に確かめる程度にとどめます。

事業モデルとビジネスフローを理解するための質問(中心)

  • どんなお客様に、何を、どのように提供して収益を得ているか
  • 受注から納品・入金までの仕事の流れと、各段階を誰が担っているか
  • 売上や利益がどこから生まれているか、強みと弱みをどう見ているか
  • 従業員の人数や役割、主な取引先との関係

取引条件に関する質問(面談の最後に簡潔に)

  • 譲渡を考えた理由と、いつごろまでに譲りたいか
  • 希望価格をどのように決めたか、その背景
  • 引継ぎの期間と内容(売り手がどこまで関わってくれるか)

印象を悪くしやすい振る舞いと質問

M&Acompassの実務の視点

最も印象を悪くしやすいのは、売り手への敬意のない振る舞いです。特に「買ってあげる」という姿勢や言葉には注意が必要です。敬意が感じられないのは、結局「事業への関心が薄い、本気ではない」と受け取られているからだと考えています。逆に、事業への興味や深い理解を示すことが、信頼の獲得につながります。また、会社員で昼間に動けないこと自体よりも、社会通念上のモラルや、返信・対応の遅さのほうが信頼を失う原因になりやすいと見ています。

起こりやすいつまずきと対策を表にまとめます。

つまずき対策
値引きや欠点の指摘から話を始めるまず事業への関心と、売り手の話を聞く姿勢を示す
資料に書いてあることを聞いてしまう事前に資料を読み込み、分からない点だけを質問にする
面談後の返信が遅い日中に動けない事情は先に伝え、返信の目安を決めておく

信頼につながる準備と伝え方

準備は、資料の読み込みと、事業の仕組みや仕事の流れを理解するための質問の整理が中心です。当日は、自分を売り込むよりも、売り手の話を丁寧に聞く姿勢が信頼につながります。そのうえで、「もし譲り受けられたら」という仮定の話として、自分の経験と事業の相乗効果や、成長の展望を説明できるかどうかが、選ばれるかを左右します。確定していないことを約束する必要はなく、あくまで考えを伝える形で十分です。

面談の後、意向表明書を出す前に確かめること

トップ面談で手応えを感じても、すぐに意向表明書を書き始めるのは早いです。面談で聞いた話を資料で確かめる時間を取ることで、意向表明書に書く条件の精度が上がります。

希望価格と条件の背景を聞く

まず、売り手がその希望価格や条件を出している理由や事情を、腹落ちするまで丁寧に聞きます。「なぜその金額なのか」「なぜその引継ぎ期間なのか」を聞くと、売り手が何を大切にしているかが見えてきます。背景が分かれば、意向表明書に書く条件の組み立てもしやすくなります。

資料で裏付けを取る:主な資料と確認する相手

聞いた話は鵜呑みにせず、財務資料や契約書で裏付けを取ります。財務・税務・法務・労務・ビジネスの各観点から多角的に見て、案件と対象の会社・事業の理解をできる限り深めておきます。

観点主な資料主な確認相手
財務・税務決算書、試算表、申告書 など売り手、顧問税理士 など
法務店舗や事務所の賃貸借契約、取引先との契約、許認可 など売り手、専門家 など
労務従業員の人数・雇用形態・給与、就業規則 など売り手 など
ビジネス取引先の構成、売上の内訳、集客の仕組み など売り手、現場の責任者 など

上の表はあくまで主なもので、案件によってはほかに確かめるべき資料や相手があります。決算書で見る項目は会社を買う前の決算書チェックリスト|個人の買い手が見るべき項目にまとめています。試算表は、直近3期分と進行期分の開示を受けるのが理想です。難しければまず進行期分だけでもよく、DD(デューデリジェンス:買う前の詳しい調査)の際に直近3期分も開示してもらいます。

M&Acompassの実務の視点

「専門家にどこまで調べてもらうか」をこの段階で決めなくてよいのか、と迷う方がいます。専門家に任せる調査の範囲は、DDの実施前までに決められていれば十分と考えています。意向表明書を出す前は、売り手の話と資料のつながりを自分の目で確かめることに時間を使うほうが、後の交渉に生きます。

開示の範囲とスケジュールを売り手に確かめる

案件によっては、意向表明書や基本合意の締結後でないと詳細な資料を開示しない売り手もいます。その場合は無理に求めず、売り手の姿勢や考え方を尊重しつつ、開示される範囲で理解を深めて進めます。開示されていない点は、意向表明書の中で「DDで確認する前提」と書いておく方法もあります。

あわせて、売り手が考える全体のスケジュールの希望と、ほかの候補先との進み具合も、可能な範囲で確認しておきます。返事を待ってもらえる期間や、ほかの候補の有無が分かれば、提出の時期や条件の決め方に役立ちます。

意向表明書に書く内容と書き方

意向表明書は、買い手が「この条件で譲り受けたい」と売り手に伝える書面です。英語の頭文字から LOI と呼ばれることもあります。テンプレートを使うのが基本で、書き方そのもので間違えることは多くありません。

意向表明書に書く主な項目

テンプレートで見かける主な項目の例は、次のとおりです。ただし、実際にはこれより少ない項目で書くことも多く、案件によってはこのほかに書く項目もあります。

項目書く内容
買い手の紹介経歴、買う目的、どんな経営をしたいか
希望する譲渡の形株式譲渡(会社ごと引き継ぐ)か、事業譲渡(事業や資産を選んで引き継ぐ)か
希望価格(と根拠)金額。根拠は省かれることも多い
資金の調達方法自己資金と融資の見込み
従業員・取引先の扱い雇用や取引を続ける方針
引継ぎの希望売り手に残ってもらう期間と、引き継いでほしい内容
今後のスケジュールデューデリジェンス(買う前の調査。DD)から最終契約までの目安
独占交渉権の依頼一定期間、ほかの候補と交渉しないよう求めるか
有効期限この意向表明がいつまで有効か

実際には、上の表より少ない項目で書くことも多いです。買い手の紹介、希望価格の根拠、資金の調達方法、従業員・取引先の扱い、引継ぎの希望などは省かれることも多く、希望価格そのものは書きます。テンプレートの項目を埋めることにこだわらず、案件や売り手から求められる内容に合わせて項目を選びます。

項目ごとの書き方のポイント

次は、各項目を書く場合のポイントです。

  • 買い手の紹介:売り手が「この人に任せられるか」を判断する材料です。事業に関係する経験と、買いたい動機を具体的に書きます。
  • 希望価格と根拠:金額は書きます。根拠の欄は省かれることも多いですが、売り手の希望価格と差があるときは、何をもとに決めたかを意向表明書か別の形で具体的に説明します。売り手の希望価格との向き合い方は、次の見出しで説明します。
  • 資金の調達方法:自己資金の額と融資の見込みを正直に書きます。融資を見込む場合は、審査の結果によって希望に沿えないこともあると添えておきます。
  • 従業員・取引先、引継ぎ:「全員を今のまま」と書けない場合は、無理に約束せず、面談で話した方針の範囲で書きます。
  • スケジュール:会社員など動ける時間に制約がある場合は、現実的な期間で書きます。全体の流れは「M&Aの流れ」で確認できます。

テンプレートにない「話し合った内容」を漏らさない

基本の項目よりも注意したいのは、トップ面談やその後のやり取りで話し合った内容や条件です。テンプレートに欄がないからといって書かずにいると、売り手は「話した内容や条件が無視された」と感じることがあります。その結果、ほかの候補が選ばれることも起こり得ます。話し合った内容は、欄を足してでも漏れなく書き入れます。

架空の例

面談で「引継ぎは半年ほど残ってもらう」と話が進み、ベテラン従業員の雇用は続けることで一致したとします。テンプレートどおりに「引継ぎ期間は別途協議」と書いて出すと、売り手は面談の話が反映されていないと受け取るかもしれません。「引継ぎは6か月を希望。従業員の雇用と条件は現状を維持する方針」と、話した内容をそのまま書くほうが伝わります。

一方で、条件を盛り込みすぎると、売り手には「要求が多い買い手」と映ります。書く前に、譲れない点と譲れる点を分けて優先順位を付けます。譲れる点は書かないか「協議したい」程度にとどめると、読みやすく誠実な意向表明書になります。

希望価格は売り手どおりに書くか、自分の希望条件で書くか

まずは売り手の希望に沿う努力をする

意向表明書の希望価格は、まず売り手の希望価格どおりに書く努力をするのが実務での考え方です。売り手は希望価格に、長年の投資や事業への思いを込めています。最初から大きく下回る価格を示すと、「本気ではない」と受け取られやすく、ほかの候補との比較で不利になります。

ただし、希望価格には、過去の投資額や借入の返済額、実現できるかが曖昧な将来の成長の見込みが入っていることがあります。こうした要素が入っていないかを意識し、成長の見込みの根拠は売り手に確かめておきます。価格の目安の考え方は、M&Aの相場は利益の何倍?年買法と小さな会社の価格の見方・交渉で説明しています。

自分の希望条件で書くときの説明の仕方

努力をしても希望価格に届かないときは、自分の希望する価格や条件を書きます。このとき大切なのは、なぜ届かないかを具体的かつ詳細に売り手へ説明することです。根拠は数字に限りません。「相場より高い」とだけ書くのではなく、どの数字や事情をどう見てその条件になったかを示します。

  • 直近の利益や借入の状況など、根拠にした数字
  • 将来の見込みのうち、根拠を確かめられなかった部分
  • 希望価格に近づけるために検討した条件(支払い方法など)

あわせて、ほかの候補先がどんな条件で意向表明書を出してきそうかを、可能な範囲で探れるとよいでしょう。分かれば、その条件も踏まえて自分の条件を決められます。

リスクもあります。無理をして高い価格を書くと、融資が通らなかったり、取得後の返済に苦しんだりして資金計画が崩れます。対策として、融資の見込みと返済の見通しの範囲で書き、その範囲を超える価格は書かないと先に決めておきます。

価格以外の条件を組み合わせて総合的に良い提案にする

売り手が見るのは価格だけではありません。引継ぎへの協力、従業員の処遇、決済の時期、支払い方法なども、意向表明書に書き入れることができます。価格で希望に届かなくても、こうした条件を組み合わせて総合的に良い提案にする工夫で、選ばれる確率が高まることもあります。

条件売り手にとっての意味の例
引継ぎの期間と関わり方取引先や従業員に迷惑をかけずに引退できる
従業員の処遇雇用と待遇を守れる
決済の時期引退や次の予定に合わせられる
支払い方法一括か分割かで、手取りの見通しが立つ

M&Acompassの実務の視点

希望価格と自分の希望条件に差があるときほど、説明の丁寧さが結果を分けると考えています。価格を下げる根拠や理由を数字や事情で具体的に示し、代わりに引継ぎや決済の時期で売り手の事情に寄り添うなどの提案は、実務では受け入れられやすいと感じています。逆に、理由を書かずに低い価格だけを示す意向表明書は、ほかの候補がいれば選ばれにくくなります。

法的拘束力と独占交渉権|意向表明後に条件を変えるときの注意

意向表明書に法的拘束力はあるか

意向表明書そのものには、原則として法的拘束力はありません。「この条件で進めたい」という買い手の意思を示す書面で、価格や条件は後の交渉で変わり得ます。提出の前や、売り手が受け入れる(応諾する)前であれば、買い手の判断で条件を変えた意向表明書を出し直すことはできます。ただし、変えた条件の意向表明書を売り手が応諾するかは、また別の話です。売り手が応諾した後に条件を変えるには、根拠と考えを丁寧に伝えたうえで、売り手の同意を得る必要があります。

なお、守秘義務や独占交渉権など一部の条項だけに拘束力を持たせる書き方も見られます。具体的には、意向表明書の末尾などに「本書は法的拘束力を有しないが、守秘義務(第○条)と独占交渉権(第○条)の条項に限り法的拘束力を有する」のように、条項を特定して明記する方法です。ただし、意向表明書は買い手が一方的に出す書面なので、売り手を拘束するには、売り手の応諾書や署名などで受け入れてもらう必要があります。実務では、守秘義務は別途の秘密保持契約で、独占交渉権は応諾書や基本合意書で定めることも多いです。自分が出す意向表明書のどの部分が約束になるのかは、提出の前に読み返しておきましょう。

独占交渉権は応諾書などで明確にする

独占交渉権とは、一定期間、売り手がほかの候補者と交渉しないことを約束する権利です。意向表明書に独占交渉権の付与を依頼する文言はよく入ります。ただ、それだけでは、売り手が受け入れたかどうかがはっきりしません。意向表明書が受け入れられたときは、売り手から応諾書などを出してもらい、独占交渉権を付与することを明記してもらうと安心です。

なお、かなり稀ですが、人気の案件では複数の候補先とDD(デューデリジェンス。買う前に財務や法務などを調べること)を行い、そこでも競争が働くことがあります。独占交渉権があるのかは、応諾の段階で確かめておきましょう。

意向表明の後に価格や条件を見直すときの進め方

意向表明の後に価格を見直すなら、根拠はDDで新たに分かった事実に置くとよいでしょう。売り手が応諾した後の見直しは買い手が決めれば済むものではなく、根拠と考えを伝えたうえで売り手の同意を得て初めて条件が変わります。応諾前であれば条件を変えた意向表明書を出し直せますが、売り手が受け入れるかは別です。DDで何を確かめるかは、M&Aのデューデリジェンス|個人が小規模案件で確かめることと費用で解説しています。

  • 根拠のある見直し:DDで見つかった簿外の債務、契約の不備、設備の修繕の必要など
  • 通りにくい見直し:根拠を示さず「やはり高い」と下げるだけの要求

M&Acompassの実務の視点

DDで新たに見つかった事実を根拠にした価格の交渉は、比較的通りやすい印象です。一方で、合理的な交渉でも、売り手がその後の生活資金の確保などの事情で応じないこともあります。応諾後に条件を変えるときは、相手に誤解を与えないよう、なぜ変えるのか、どう進めたいのかを丁寧かつ明確に伝えたうえで、売り手の同意を得ることが必要だと考えています。

意向表明の後は、DDから最終契約、最終契約から決済までの準備が、当初の想定より延びやすい段階です。融資の審査や専門家の日程も絡むため、余裕を持ったスケジュールで進めましょう。意向表明書が受け入れられたら、次は基本合意書(主な条件を確認する書面)、DD、最終契約へと進みます。

参考にした資料