個人M&Aのスケジュール|4カ月で実施すべき8つのプロセスを解説
更新日:5月29日
事業承継や成長戦略としてM&Aが注目を集め、メディアでよく取り上げられています。昨今は、M&Aプラットフォームを活用して、個人の買い手であってもM&Aを成約させることができるようになりました。
しかし、M&Aプラットフォームで案件を探しているものの、M&Aの進め方や具体的なスケジュールがいまいちわからないという方もいるでしょう。
この記事では、M&Aのスケジュールについて次の内容を解説します。
平均的なスケジュール
個人M&Aのプロセスを8つに分けて解説
M&Aを円滑に進める2つのポイント
最後まで読んでいただくことで、個人M&Aのスケジュールを体系的に把握でき、イニシアチブを取る形で売り手との交渉を進められるようになるはずです。
M&Aの平均的なスケジュール
M&Aの交渉期間には幅があります。売り手と買い手の状況、交渉の進み方により1カ月で成約する場合もあれば、1年かけて成約する場合もあります。
大手M&Aプラットフォームが発表しているデータによると、成約までの平均期間は4カ月前後です。そのため、買い手としても約4カ月で案件を見つけて、分析と交渉を実施し、最終契約を締結するイメージを持っておくと良いでしょう。1つの例ではありますが、次のようなスケジュールでプロセスを進める場合が多いです。
1カ月目〜2カ月目:案件探し、資料収集・初期的な分析
3カ月目:両者面談、意向表明書の提出
4カ月目:デューデリジェンス、最終契約の締結
以下では、個人の買い手が、4カ月の中で実施する8つのプロセスの概要を紹介します。通して読んでいただくと、4カ月の間に何をしなければならないのかがイメージできるようになるはずです。
個人M&Aを進めるプロセス
この章では、個人M&Aを進める以下の8つのプロセスについて解説します。
事前準備
案件探し
資料収集
両者面談
意向表明書の提出/基本合意書の締結
デューデリジェンス
最終契約の締結
クロージング
M&Aプラットフォームで案件を探す前に必要な事前準備にも触れているため、以下で詳細を確認してみてください。
1. 事前準備
M&Aのスケジュールにおける最初のプロセスは、M&Aの事前準備です。事前準備では、具体的に次の2つに関する戦略を整理・決定します。
M&Aの目的の整理
検討する業種・エリア・規模の決定
事前準備では、M&Aを通じて得られるメリットや効果を明確にし、シナジー効果を把握します。これは個人であっても同じです。例えば、「美容室を取得して独立する」「管理工数のかからないレンタルスペース事業を取得して、副業として月20万円の収入を得る」などのように個人であっても、M&Aを行う目的を明確にする必要があります。
その上で、以下の3点から実際に検討する案件をしぼります。
業種
エリア
規模(売上高や譲渡価格)
はじめは、ご自身のイメージで業種・エリア・規模を決定し、それらを検索条件として活用してM&Aプラットフォームで案件を探してみてください。ヒットする案件数が10件以下のように少ない場合は、業種・エリア・規模の条件を拡大すると良いでしょう。逆に、ヒットする案件が多すぎる場合は、さらに条件をしぼった方が検討しやすくなります。
このように、はじめに業種・エリア・規模を定めておくと、案件の数や交渉の進捗に応じて、条件を変えた検索を行いやすくなります。機会損失の回避にもつながるため、3つの項目を決めてから案件探しに進んでほしいと思います。
そして、個人でM&Aを成約させようとする場合、行動量が重要です。そのため、上記のような事前準備を終えたら、すぐにM&Aプラットフォームで案件探しを行ってみましょう。
2. 案件探し
次のプロセスは、M&Aプラットフォームを利用した案件探しです。個人の買い手として案件を見付けるためには、M&Aプラットフォームの利用をおすすめします。
事業承継・引継ぎ支援センターやM&A仲介会社から、個人で取得できる規模の案件を紹介してもらえるケースもありますが、必ずしも多くありません。そのため、まずはM&Aプラットフォームで案件を探すことをおすすめします。
案件探しにおいては、事前準備で定めた「業種・エリア・規模」から案件を検索しましょう。その上で、少しでも検討を進められる案件は積極的に実名交渉します。例えば、数千万円の赤字がある案件のように、詳細情報を確認するまでもなく検討が難しいと判断できる案件は、この時点で選択肢から外しても問題ありません。
一方で、業種やエリアが希望にマッチしていて、赤字額が小さい案件は実名交渉に進めましょう。案件の詳細情報を検討したときに、あなたのスキルや知識を活かして赤字を解消できる可能性があるためです。案件探しでは、事前に定めた業種・エリア・規模に沿いつつも、積極的に実名交渉に進める姿勢が重要です。
3. 資料収集
M&Aプラットフォーム上で秘密保持契約を締結すると、交渉が実名交渉のフェーズに移り、売り手から対象会社/対象事業の詳細情報を取得できるようになります。一般的には、このタイミングで対象企業の社名を把握します。同時に、買い手の氏名や経歴を売り手に伝えます。
実名交渉では、対象会社/対象事業に関する資料を収集し、初期的な分析と交渉を行います。取得すべき資料は、M&Aの対象が会社か事業かにより異なるため、以下を参考にしてください。
■会社を買う場合
■事業を買う場合
また、譲渡対象に不動産が含まれる場合は、次の資料も追加で取得します。
これらの資料のなかには、売り手が作成していないものもあります。それらの資料については、売り手にインタビューなどをして口頭やメール等で必要な情報を取得しましょう。資料収集については、売り手にも一定の負担が発生します。双方の負担を考慮しながら可能な限り資料を集めていきます。
また、これらの資料収集とあわせて、売り手から次のような情報を得ると、後の交渉に活用できます。
譲渡の理由・背景
ビジネスの課題
譲渡価格算出のロジック
資料収集も含めて、これらの情報を得ることができると、あなたは対象会社/対象事業の概要を把握し、財務や組織の状況も理解できた状態になるはずです。ここまで辿り着けると、売り手と実際に会って会話する「両者面談」に進むべきか否かを判断できます。
4. 両者面談
両者面談は、売り手の経営理念や企業文化、経営者の人間性を直接確認するための重要な場であり、その後の円滑な交渉においても重要です。また、自身の態度や表情が相手に直接伝わりやすく、不用意な言動が信頼を損ねる可能性があるため、真摯な態度で誠実に面談に臨む必要があります。
コロナ感染症の影響もあり、一時期は両者面談をオンラインで実施する動きもありましたが、現在であれば、可能な限り直接会う形で実施しましょう。直接会う場合は、対象会社の本社や事務所で面談を実施することも多いですが、従業員への情報漏えいを防ぐ観点から、ホテルのラウンジやカフェで実施する場合もあります。
また、面談の前後に対象会社の施設見学を行う場合もあります。売り手の要望もふまえた上で、適切な場所と時間帯を調整しましょう。
両者面談では、譲渡対象のビジネスモデル、事業の強みや課題を正確に把握するためのインタビューを実施します。また、ビジネスにおける売り手の具体的な役割、M&A後の進退に関する売り手の希望、引継ぎ可能期間なども確認します。
その上で、売り手の希望譲渡価格、希望条件、特に譲歩できない重要な点も確認してください。例えば、売り手が「絶対に500万円以下での譲渡はしない」と考えており、あなたも「300万円以上の価格を出すことは不可能」と考えている場合、それ以上の交渉をしてもお互いに時間を無駄にするだけだからです。
一方で、両者面談での条件交渉は避けてください。あくまでも売り手の希望を確認し、その上で交渉継続か見送りかの判断をする形で問題ありません。
5. 意向表明書の提出/基本合意の締結
両者面談を経て、対象会社/対象事業を取得したいとの思いが変わらない場合、「意向表明書の提出」もしくは「基本合意書の締結」を行います。
なお、意向表明書と基本合意書は、次のようにアルファベット3文字で表すこともあります。
意向表明書:LOI(Letter of Intent)
基本合意書:MOU(Memorandum of Understanding)
どちらも、デューデリジェンスに入る前に双方の希望をすり合わせる目的で行うプロセスですが、意向表明書は買い手の意志を表明する文書です。一方で、基本合意書は売り手と買い手による合意について記載した文書です。いずれも書面に記載しなければならない事項に法的な定めはないため、本記事では、意向表明書について解説します。
売り手は、買い手が提出した意向表明書に記載された条件を確認した上で、どの買い手に独占交渉権を与えて、デューデリジェンス以降のプロセスに進むかを判断します。同じ時期に複数の買い手から意向表明書が提出される場合もあるため、M&Aを望む買い手にとっても非常に重要なプロセスです。
実務において、意向表明書は次の構成で作成される場合が多いです。
スキームや諸条件
デューデリジェンス以降のプロセスに関するスケジュール
秘密保持の条項
独占交渉権について
具体的には、株式譲渡や事業譲渡などのM&Aのスキーム、デューデリジェンス前の時点での取得対価の予定額、経営者・従業員の処遇、最終契約までのスケジュール、一般的な秘密保持の条項、1カ月から3カ月程度の独占交渉権の付与を依頼する旨、条件の最終調整方法などについて記載します。
意向表明書には法的な拘束力を持たせない場合が多いですが、最終契約にも影響を与える重要な項目を記載するため、可能であれば専門家のアドバイスを得て作成しましょう。
6. デューデリジェンス
デューデリジェンス(DD:Due diligence)は、買い手が、売り手の財務、法務、ビジネス(事業)、税務、労務などの実態を調査するプロセスです。この調査は、対象会社/対象事業の実態を明らかにし、取得対価の金額を検証したり、取得のリスクを把握したりすることを目的としています。
通常、買い手は会計士や弁護士といった財務税務、法務労務などの専門家に調査を依頼します。法人同士のM&Aの場合は、デューデリジェンスに数百万円から数千万円がかかるケースもありますが、個人で行う小規模なM&Aの場合は、最低限の範囲でデューデリジェンスを実施する数十万円程度のパッケージを利用するのがおすすめです。
デューデリジェンスは必須のプロセスではありませんが、M&Aの後に問題が発覚して金銭的な負担や工数が発生するよりは、事前に一定の金額で専門的な見地から譲渡対象を調査した方が良いでしょう。
個別具体的な案件によりデューデリジェンスを実施すべき規模や範囲は異なります。これらの点に不安がある場合は、専門家に相談してみてください。
当社も、最低限の範囲でデューデリジェンスを実施するパッケージを用意しています。そもそもデューデリジェンスが必要かどうかもふまえてアドバイスさせていただきますので、お気軽に無料相談会をご利用ください。
7. 最終契約の締結
デューデリジェンスで明らかになった事項や、意向表明書の提出時に保留になっていた点について再交渉し、最終的な契約を締結するプロセスです。名称に多少の幅はあれど、株式譲渡の場合は株式譲渡契約、事業譲渡の場合は事業譲渡契約が最終契約となります。
最終契約には、対象会社や対象事業を取得する条件、譲渡価格・支払い方法、売り手と買い手による表明保証、譲渡の前後で発生する義務、損害賠償に関する事項、秘密保持条項などが記載されます。
買い手として最終契約書を作成する場合、譲渡の条件は当然重要ですが、譲渡対象に関するリスクコントロールの観点も忘れてはいけません。分析やデューデリジェンスで確認できなかったリスクについて、売り手に表明保証を行ってもらい、表明保証違反があった場合には損害賠償や契約の取消などで対処できるようにしておきます。
例えば、「対象会社に簿外債務がない」旨を売り手に表明保証してもらい、万が一、M&A後に簿外債務が見つかった場合は、買い手から売り手に対して損害賠償請求をして対処します。
このように、最終契約に記載すべき事項は案件ごとに異なります。そのため法律の専門家に相談し、最終契約の作成もしくはレビューに対応してもらうことをおすすめします。その上で、売り手とやりとりしながら最終契約の内容を固めていきましょう。
8. クロージング
クロージングは、M&Aにおける最後のプロセスです。クロージングでは、最終契約の定めに従って、株式や事業の譲渡、取得対価の支払いが行われます。対象会社が株券不発行会社の場合は、株主名簿の書き換えにより株式の譲渡を完了させます。
事業譲渡の場合は、不動産の移転登記、譲渡対象となっている従業員一人ひとりとの雇用契約の巻き直し、不動産賃貸借契約の巻き直しなどに対応します。
通常は最終契約の準備と同時にクロージングの準備も行い、クロージングに必要な手続き・書類を洗い出しておきます。場合によっては、役員の辞任・新任に関する手続きも発生します。クロージングで必要となる手続きや書類は案件により異なるため、不安な場合はM&A専門家に相談しましょう。
M&Aを円滑に進めるポイント
冒頭でも述べた通り、M&Aの交渉期間には幅があります。しかし、交渉が間延びして売り手のモチベーションが低下すると、M&Aを成約させにくくなる場合もあります。
ここでは、M&Aを円滑に進めるための2つのポイントを紹介します。
M&Aの全プロセスを把握しておく
本記事でも紹介した通り、M&Aのプロセスは8つに分けることができます。M&Aを円滑に進めるためには、これらの8つのプロセスの概要を頭に入れておく必要があります。その上で、常に次のプロセスを意識しながら、情報収集・分析・交渉を行っていきます。
そうすることで、「事前に確認すべきだった」という確認漏れを防ぐことができ、M&Aが円滑に進みます。また、売り手に対して、自らを適切な順序でアピールできるようになります。
常に念頭においていただきたいのは、多くの売り手は複数の買い手と並行して交渉しているという点です。そのなかで、あなたの交渉が間延びすると、他の買い手に遅れを取ってしまいます。裏を返すと、他の買い手がM&Aの全体像を把握していないゆえに間延びした交渉しかできない場合、その状況を利用してあなたが優位に立つこともできます。
M&Aのプロセスを把握していないがゆえに起こる遅延は機会損失にもつながります。本記事を参考に、M&Aのプロセスを覚えてしまうと今後の交渉が円滑になるはずです。
専門家を活用する
本記事でも述べた通り、M&Aには専門的な知識が必要になるプロセスがあります。特に、デューデリジェンスや最終契約は、買い手のリスクをコントロールするために重要なプロセスです。
これらの専門知識は、個人の買い手であっても書籍やインターネットを通して身につけられますが、一定の時間がかかります。M&Aプラットフォームで案件を探し、交渉しながら専門知識を身につけるのは決して簡単ではないでしょう。
そのため、M&Aを円滑に進める目的で専門家を活用するのも1つの選択肢です。専門家であれば、M&Aの全プロセスも体系的に理解しているため、各プロセスにおいて必要な情報収集・分析・交渉をサポートしてくれます。
M&Aはあくまで手段であり、目的は、その先にある「独立・起業」「収入の確保」「情熱を注ぐことのできるビジネスへの注力」などです。手段が目的になると本末転倒なので、必要に応じて専門家の活用を積極的に検討してみてください。
まとめ
本記事では、M&Aのスケジュールについて解説しました。
大手M&Aプラットフォームが発表しているデータによると、成約までの平均期間は4カ月前後です。4カ月で成約を目指すためには、M&Aに必要な個々のプロセスの概要をしっかりと把握しておく必要があります。本記事で解説した個人M&Aの8つのプロセスを改めて確認し、明日からの案件探し・交渉に役立ててください。
全プロセスを把握するとM&Aを円滑に進められるようになります。また、デューデリジェンスや最終契約のように、M&Aには、専門知識の有無が買い手のリスクに直結するプロセスもあります。リスクをコントロールした上で、あなたの臨む案件を成約させられるように、必要に応じて専門家の活用も検討してみてください。
「個人M&Aなら、M&Acompass」
M&Acompassは、個人M&Aの買い手に対する伴走支援です。これまでM&Aの専門家のサポートが十分に届いていなかった個人の買い手向けの伴走支援であり、個人M&Aの成約を目指すためのM&A戦略立案・案件探しといった初期的な工程からクロージングまでを支援するサービスです。
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