売り手の手数料の全体像|誰に何を払うのか

小さな会社や個人事業を売るとき、売り手が払う費用は大きく2つに分かれます。1つは、仲介会社・アドバイザー(FA)への報酬やM&Aプラットフォームの利用料といった手数料です。もう1つは、会計士・税理士・弁護士などの専門家への報酬や、買い手に開示する資料・情報の準備、公的書類の取得などにかかる実費です。登記の登録免許税や、店舗・事務所の賃貸借契約の切り替えにかかる費用は、買い手側で発生することが多く、売り手の負担はほぼありません。売却の進め方そのものは小さな会社・個人事業を売る方法|流れ・相手探し・価格・注意点で説明しています。この記事は「お金がいくら、どこに出ていくのか」に絞って解説します。

仲介会社・アドバイザー(FA)に払う報酬

仲介会社は、売り手と買い手の間に立って相手探しや交渉の調整をする会社です。FA(ファイナンシャルアドバイザー)は、依頼した側だけに付いて助言する専門家です。仲介は売り手と買い手の双方から報酬を受けることがあり、FAは依頼した側の利益のために動きます。

報酬は、相談や契約の時点で払う着手金、途中の節目で払う中間報酬、成約後に払う成功報酬などで構成されます。成功報酬は成約後に払う形が多く、M&Acompassの実務の経験では決済後に支払うことが多くありました。ただし「成約」が最終契約の締結を指すのか決済を指すのか、支払の期限は仲介会社やサービスごとに異なるため、契約書や利用規約で確かめてください。成功報酬には下限の「最低報酬」が設けられることがあります。M&Acompassが評価した案件では、業種別の譲渡希望価格の中央値は300万円〜4,143万円と、数百万円〜数千万円の価格帯が中心でした。この価格帯では最低報酬が価格に対して重くなりやすい点に注意が必要です。

プラットフォームの利用料

M&Aプラットフォームは、案件をインターネット上に掲載して買い手を探すサービスです。費用(成約後に払う手数料や月額料金)は買い手だけが払う形のサービスが多く見られます。手数料の支払時期がいつになるかは、サービスごとに利用規約で確かめてください。ただし、相手探しや交渉を自分で進める手間がかかります。

専門家への報酬と資料準備などの実費

契約書の確認は弁護士、手取り額の計算に関わる税金の計算は会計士や税理士と、場面ごとに専門家の費用がかかります。これらは依頼する範囲によって金額が変わります。このほか、買い手に開示する決算書や契約書などの資料・情報の準備や、登記事項証明書などの公的書類の取得にも、案件によって実費がかかります。

払う相手発生するタイミング金額の決まり方
仲介会社・アドバイザー(FA)契約時・途中の節目・成約後(支払時期は契約で確認)譲渡価格などに料率を掛ける方式が中心。最低報酬がある場合も
M&Aプラットフォーム掲載時・成約後(支払時期は利用規約で確認)サービスごとの料金表。買い手だけが払う形が多い
会計士・税理士・弁護士などの専門家、資料準備・公的書類の取得依頼した作業ごと・準備のつど依頼する範囲と時間で見積もり。公的書類は取得する通数に応じた実費

次の見出しから、それぞれの仕組みと、契約前に確かめる点を順に見ていきます。

仲介会社の手数料の仕組み|着手金・中間報酬・成功報酬・最低報酬

仲介会社の手数料は、1つの金額ではなく、複数の報酬を組み合わせた体系になっています。まず、どの報酬がどの時点で発生するのかを押さえましょう。

報酬の5つの種類とタイミング

報酬の種類支払う時点内容
着手金仲介契約を結んだとき業務開始時に払う固定額
リテイナーフィー毎月契約期間中に払う月額の報酬
中間報酬基本合意のときなど成約前の節目で払う報酬
成功報酬成約後(最終契約の締結後か決済後かは契約で確認)譲渡の金額などを元に計算する報酬
最低報酬成功報酬と同じ時点成功報酬の下限として定められた金額

これらの各項目を設けるかどうかは、仲介会社によって異なります。小さな会社の売却では、計算した成功報酬より最低報酬の方が高くなり、最低報酬が実際の支払額になることもあります。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」では、仲介者やFAが手数料の体系を依頼者に分かりやすく説明することが求められています。説明を受けて分からない点があれば、契約前にそのまま質問して構いません。

レーマン方式とは

成功報酬の計算で広く使われるのが「レーマン方式」です。計算の元になる金額を区分に分け、区分ごとに決められた料率を掛けて合計します。たとえば、5億円以下の部分に5%、5億円を超え10億円以下の部分に4%といった形が例として紹介されています。小さな会社・個人事業では、元になる金額が最初の区分に収まることがほとんどです。そのため、実質的には「元の金額×最初の区分の料率」と最低報酬のどちらか高い方になると考えると分かりやすいです。

株価レーマンと総資産レーマンで手数料が変わる

レーマン方式には、計算の元になる金額の取り方で2つの種類があります。

  • 株価レーマン:譲渡価格(株式や事業の対価)を元にする
  • 総資産レーマン:負債を含めた会社の総資産を元にする

同じ料率でも元の金額が違うため、手数料は大きく変わります。借入金などの負債が多い会社ほど、総資産レーマンでは元の金額が膨らみます。一般に、株価レーマンの方が手数料は安くなります。

架空の例

譲渡価格が3,000万円、総資産が1億円(うち負債7,000万円)の会社を、料率5%で単純に計算してみます。株価レーマンなら3,000万円×5%=150万円です。総資産レーマンなら1億円×5%=500万円になります。譲渡価格は同じでも、計算の元が違うだけで350万円の差が生まれます。

M&Acompassの実務の視点

実務では、株価レーマンと総資産レーマンがあること自体を知らない売り手の方も少なくありません。両者では内容によって手数料の金額が大きく変わるため、必ず確かめるべき点です。成功報酬型は業界で一般的に使われている体系なので、「成功報酬型です」と説明されたときこそ、株価レーマンなのか総資産レーマンなのかを、その場で確認してください。

着手金や中間報酬は成功報酬に充当されるか

もう1つ確かめたいのが、成約前に払ったお金の扱いです。着手金や月額のリテイナーフィー、中間報酬が、最終的な成功報酬から差し引かれる(充当される)のか、別に上乗せされるのかで、支払いの総額が変わります。着手金・リテイナーフィー・中間報酬・最低報酬のそれぞれの有無と合わせて、充当の有無も契約前に確認しておきましょう。

仲介会社と契約する前に確かめる項目

「着手金や最低報酬を後から知って驚いた」という場面は、実務ではほぼありません。どの仲介会社も契約前に報酬の説明をするためです。むしろ大事なのは、契約書に書かれている項目を自分の言葉で確かめてから署名することです。特に次の4点は、小さな会社・個人事業の売り手でも必ず押さえておきたい項目です。

報酬体系の確認

1つ目は報酬体系です。着手金、リテイナーフィー(月額の顧問料)、中間報酬、最低報酬がそれぞれあるのかないのかを確かめます。あわせて、成功報酬の計算の元が譲渡価格(株価レーマン)なのか、総資産(総資産レーマン)なのかも聞きます。この違いは手数料の額に直接ひびくため、「成功報酬型です」という説明だけで納得しないことが大切です。

専任か非専任か

2つ目は専任契約かどうかです。専任契約では、他の仲介会社やプラットフォームを同時に使えないことがあります。相手探しの窓口を広げたい場合は、非専任でも契約できるかを先に確認しておきましょう。断られることもありますが、聞かずに署名してから後悔するよりは良い結果になります。

テール条項と裁判管轄

3つ目はテール条項です。契約が終わった後の一定期間に、仲介会社が紹介した相手と成約した場合にも報酬が発生する条項を指します。期間がどのくらいか、対象が「紹介された相手」に限られているかを確かめます。

4つ目は裁判管轄です。万一もめたときにどこの裁判所で争うかの取り決めで、遠方の裁判所だと売り手の負担が重くなります。自分の所在地から通える場所かを見ておきましょう。

業務範囲と秘密保持

4点のほかに、仲介会社がどこまでの業務を担うのか(相手探し、資料作成、交渉の調整など)と、秘密保持条項の内容も確認が必要です。これらは一般的に記載されるべき内容ですが、書き方があいまいなまま進むと、「やってもらえると思っていた」というずれが生まれます。

契約前に聞く言い回しの例を、まとめておきます。

項目聞き方の例
報酬体系「成功報酬の計算の元は譲渡価格ですか、総資産ですか」「着手金や中間報酬は成功報酬に充当されますか」
専任・非専任「プラットフォームとの併用は可能ですか」
テール条項「契約終了後に報酬が発生する期間と相手の範囲を教えてください」
裁判管轄「紛争時の裁判所はどこになりますか」
業務範囲「資料作成や交渉の調整はどこまで含まれますか」

口頭の説明と契約書の文言が食い違うときは、契約書に合わせて直してもらうよう頼みましょう。

プラットフォームの売り手の手数料と、仲介との使い分け

プラットフォームの手数料の特徴

プラットフォームでは、費用(成約時の手数料や月額料金)を買い手だけが払う形が多い点は前の見出しのとおりです。ただし、売り手にも成約時の手数料がかかるサービスもあるため、登録前に公式サイトの料金表を時点とあわせて確かめてください。

費用が軽い分、売り手自身がやることは増えます。案件の概要の作成、買い手候補とのやり取り、条件の整理を自分で行う場面が多くなります。不慣れなまま進めると、条件の抜けや、相手を見極める前に情報を出し過ぎることが起きやすい点がリスクです。対策として、概要の作成や条件の整理だけをM&Aアドバイザーや税理士などに部分的に依頼する方法があります。

小さな案件の価格帯と手数料の重さ

前の見出しで触れたとおり、M&Acompassが評価した案件では、業種別の譲渡希望価格の中央値は300万円〜4,143万円でした。数百万円〜数千万円の価格帯が中心であり、この価格帯では仲介会社の最低報酬が相対的に重くなります。最低報酬が譲渡価格に近い金額なら、手取りがほとんど残らない計算になるためです。価格の見当は小さな会社の譲渡価格の決め方で確かめたうえで、手数料と見比べてください。

比べる点仲介会社・アドバイザー(FA)プラットフォーム
売り手の費用報酬体系により数百万円単位になることもあるかからないか低めのことが多い
相手探し仲介会社の候補先から登録した買い手の中から
売り手の手間少ない多い
交渉の進行専門家が調整自分で行う

仲介・FAとプラットフォームの併用という考え方

M&Acompassの実務の視点

数百万円規模の案件で、仲介を使うかプラットフォームを使うかを分けるのは、結局は費用だけです。理想を言えば両方を使ったほうが、買い手候補との出会いの機会が増えます。予算があれば、仲介会社やFA(依頼した一方の側に立って助言する専門家)に依頼すると、IM(企業概要書)の作成や交渉のコーディネートをしてもらえます。FAであれば売り手の利益最大化のために動いてくれますので、使わない手はありません。予算が合わない場合は、プラットフォームを主軸に、部分的に専門家やアドバイザーを使うのが現実的です。

併用を考えるときは、前の見出しで触れた専任契約の有無を先に確かめてください。専任契約を結ぶと、プラットフォームへの掲載が契約に反するおそれがあるためです。

手数料以外にかかる費用|専門家の報酬と税金

仲介やプラットフォームの手数料のほかにも、譲渡の過程では専門家への報酬や、資料・公的書類の準備にかかる実費が発生します。ここでは、どの場面で何が発生しうるかを整理します。

専門家への報酬が発生する場面

小さな会社・個人事業の譲渡でも、次のような場面で専門家に依頼することがあります。

専門家依頼する場面の例
会計士・税理士決算書の整理、譲渡にかかる税金の計算、申告
弁護士譲渡契約書の内容確認、条件の調整
司法書士(弁護士も可)株式譲渡後の役員変更登記など(譲渡後の会社側で行うことが多く、売り手の負担はほぼない)
仲介会社・アドバイザー(FA)譲渡の進め方、相手探し、条件の整理

依頼する前に、どこまでを頼むのかを決め、見積もりをとっておくと安心です。

資料の準備と公的書類の取得にかかる実費

買い手に開示する資料・情報の準備には、売り手側の手間と実費がかかります。決算書や申告書の整理、契約書や許認可の写しの準備、登記事項証明書などの公的書類の取得が主なものです。買い手が検討を進めるにつれて求められる資料は増えるため、財務・税務・法務・労務・ビジネスにわたってなるべく網羅的に、整理された状態にしておくと進行がスムーズになりやすいです。一方、株式譲渡後の役員変更登記にかかる登録免許税や、店舗・事務所の賃貸借契約の切り替えにかかる費用は、譲渡後の会社や買い手側で発生することが多く、売り手の負担はほぼありません。事業譲渡で買い手が許認可を取り直す必要が生じる場合も、取り直しの費用は買い手側の負担になることが多い一方、売り手は引き継ぎの日程に影響を受けます。どちらの手法を選ぶかで必要な資料や日程が変わるため、早めに確認しておきましょう。

特に注意が必要なのは税金

M&Acompassの実務の視点

売り手が見落としがちな費用は、実務では特にありません。ただし、注意が必要な費用はあります。税金です。税務はルールや決まりが複雑で、ルール自体がグレーな部分もあります。税理士や会計士などの専門家に相談して確認をしないと、「想定以上に納税をしなければいけなくなった」ということが起こりやすいところです。

譲渡で受け取るお金にかかる税金は、株式譲渡か事業譲渡かという手法で決まるのではなく、売り手(納税する主体)が個人か法人かで決まります。売り手が個人の場合は、所得税などの対象になります。個人株主が株式を譲渡するときや、個人事業主が事業を譲渡するときがこれに当たります。売り手が法人の場合は、法人税などの対象になります。会社が事業を譲渡するときや、法人株主が株式を譲渡するときがこれに当たります。

売り手が個人の場合の例を挙げると、個人株主が株式を譲渡したときは、譲渡益に申告分離課税で原則20.315%がかかります。内訳は所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%です(国税庁タックスアンサーNo.1463。公開前に最新の記載を確認)。個人事業主が事業譲渡をする場合は、譲る資産の種類ごとに所得の区分が異なり、消費税がかかる資産もあります。

手取りの考え方

手取りは、おおまかに「譲渡価格 − 手数料 − 専門家報酬 − 税金」で考えます。

架空の例

個人株主が、設立時に100万円を出資した会社の株式を500万円で譲渡しました。プラットフォームを使い、売り手の手数料は0円。契約書の確認と申告を専門家に頼み、報酬は合計30万円でした。譲渡益は500万円−100万円−30万円=370万円、税金は約75万円(原則の税率20.315%で計算した概算)。手取りは500万円−30万円−75万円=約395万円になります。

実際には、取得費の計算や経費として引ける範囲、役員退職金の扱いなどで結果が変わります。譲渡価格の決め方は小さな会社の譲渡価格の決め方でも扱っていますが、税額の個別の判断は、譲渡の前に会計士や税理士などの専門家に相談してください。

手数料を惜しんで専門家に頼まないリスクと、現実的な使い方

分野ごとの専門家の役割分担

「専門家に頼まなかったせいで困った」という決まったパターンが、特にあるわけではありません。ただ、譲渡では分野の違う問題が同時に起こります。相談先を分野ごとに分けておくと、見落としが減ります。

分野主な相談先任せる内容の例
譲渡の進め方・相手探し・条件の整理・交渉仲介会社・アドバイザー(FA)進め方の設計、株式譲渡か事業譲渡かの検討、買い手との交渉の整理
法務・労務弁護士契約書の確認、従業員の引き継ぎ
財務・税務公認会計士・税理士決算書の整理、税金の見通し
登記司法書士(弁護士も可)役員変更や商号の登記

このように分野ごとに専門家を使うほうが、M&Aで失敗したり困ったりする確率は格段に減ります。

M&Aアドバイザーは全体で使うほうが効果が高い

弁護士や会計士・税理士は、契約書の確認だけ、税金の計算だけ、といった部分的な依頼もできる場合があります。一方、M&Aアドバイザーは業務の性質上、相手探しから条件の整理、契約、引き継ぎまで、全体で関わるほうが効果が高い相談先です。途中の一部だけ頼むと、前の段階で決めた条件のずれに気づきにくくなります。失敗や困る場面が起こる確率は、その裏返しだと考えてください。

M&Acompassの実務の視点

手数料を惜しむこと自体は悪いことではありません。ただ、削る対象を「専門家すべて」にすると、交渉の途中で誰にも相談できない状態になります。削るなら、どの分野を自分で進め、どの分野を頼むかを最初に線引きするのが現実的です。

費用を抑えながら専門家を使う組み立て

予算が限られる売り手は、次のような組み立てが現実的です。

  • プラットフォームを主軸に相手を探す
  • 相手が見つかったら、契約書の確認は弁護士、税金の見通しは会計士や税理士に要所だけ頼む
  • 進め方や条件の整理に不安があれば、M&Aアドバイザーに全体の相談役を頼む

自分で進める範囲と頼む範囲を最初に決めておくと、途中で想定外の費用が増えにくくなります。なお、譲渡せずに廃業する場合にも費用はかかります。費用・手間・期間の違いは「後継者がいないときの選択肢|廃業と譲渡を費用・手間・期間で比較」で整理しています。

参考にした資料