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【個人買い手向け】M&Aの3つの失敗例|原因と対応策を解説!

更新日:4月22日

昨今、個人の買い手によるM&Aを利用した起業の実現・副業の取得が増加しています。個人でも取得できる規模の会社の後継者不在やM&Aプラットフォームの成長により、個人の買い手としてM&Aを成功させる環境が整っているためです。


しかし、華々しい成功の裏には失敗もあります。そして、失敗例の分析により個人M&Aを成功させるポイントが見えてきます


本記事では、個人の買い手向けにM&Aの3つの失敗例を解説します。また、それぞれの失敗例について、失敗をどのように回避すべきだったかについても解説します。


公式LINE

個人M&Aの失敗例の分析方法

失敗例の分析方法

はじめに、本記事における個人M&Aの失敗例の分析方法を紹介します。この分析方法に沿って失敗例を確認すると、個人M&Aを成功させるポイントがわかります。


失敗の原因を特定

失敗例を読む際は、なぜ失敗したのかという原因の特定が重要です。本記事では、個人M&Aの失敗例として代表的な3つを解説します。それぞれの事例の失敗原因を正確に把握しましょう。


失敗を回避するプロセスを理解

失敗原因を把握した後は、それを回避する方法の理解が重要です。M&Aには体系化されたプロセスがあります。そして、各プロセスを適切に進めることで、個人M&Aにおける失敗を回避できます。


M&Aの流れと各プロセスの役割

失敗例を解説する前に、個人の買い手側から見たM&Aの流れと各プロセスの役割を確認しましょう。特に、各プロセスが何のために行われているのかについては正確にイメージできるようになる必要があります。それだけで失敗を回避できる可能性が高くなります。


次の表では、M&Aの流れと各プロセスの役割をまとめました。

プロセス

役割

1

匿名情報の検討

数多くの案件の中で実名交渉に進むものを選別する

2

実名交渉

対象案件を特定

3

資料収集と初期的交渉

初期的な分析に必要な資料および情報の入手

売り手の条件目線の確認

4

QA

両者面談に進むかどうか判断するために、不足している情報を取得

5

両者面談

売り手の人柄などを把握

売り手の気持ちをつかむ

6

追加QA

意向表明の提出もしくは基本合意契約の締結のために、不足している情報を取得

7

意向表明・基本合意

現時点での取得条件に関する合意

独占交渉権の獲得

8

デューデリジェンス

専門家の目で対象案件のリスクを把握

9

最終契約の締結

最終的な取得条件に関する合意

リスクコントロール

10

クロージング

株式もしくは事業の取得

取得対価の支払い

11

引き継ぎ

取得した会社もしくは事業の経営へのスムーズな参画

このようにM&Aのプロセスには、それぞれ役割があります。これらのプロセスを丁寧に進められるようになると自ずと失敗も回避できます


それでは、紹介したプロセスをふまえて失敗例を確認していきましょう。


失敗例① 元社長に依存したビジネスの取得

失敗例①

ここからは、過去の事例をもとにした個人M&Aの失敗例3つを解説します。はじめに各例においてどのようなM&Aが行われたかの概要を把握し、そのうえで失敗原因と失敗を回避するためのプロセスを確認していきましょう。


1つ目として解説する失敗例の概要は次の通りです。

業種

釣具の小売事業

​対象案件

エリア

千葉県

規模

売上高2500万円

買い手

・上場会社の総務部長の経験を持つ

・趣味の釣りに関するビジネスを取得したいと考えていた

取得条件

500万円で株式の100%を取得

対象会社はオーナー夫婦が30年にわたって二人で営んできた釣具店であり、「趣味の釣りに関するビジネスを取得したい」と考える買い手の考えに合致するものでした。また、顧客のリピート率や購入単価も高く、買い手としても安定したビジネスだと評価して交渉を進めています。


双方は釣り好きという点でも意気投合し、M&Aの各プロセスも順調に進みました。そして、買い手が500万円で株式の100%を取得し、オーナー夫婦は1カ月の引き継ぎを実施した後に別の道を進むことになったのです。


引き継ぎの後、買い手がオーナー夫婦の代わりに店に立ち、引き継ぎを受けた通りに釣具の販売を行いましたが、月次での売上が少しずつ減少していきます。最終的には、取得から1年が経過した時点で売上高が1500万円を下回り、営業赤字となりました。


失敗の原因

本件の失敗原因は、釣具店のリピート顧客が元オーナー夫婦の人柄に紐づいていた点にあります。顧客と元オーナー夫婦の間に友人関係のようなものが成立しており、そのために高いリピート率・購入単価が実現されていたのです。


取得後も釣具店の商品ラインナップは変わりませんでしたが、買い手はゼロから顧客との関係を作らなければなりませんでした。その結果、顧客が徐々に他の釣具店に流れ、売上が落ち込んでしまったのです。


このように、個人M&Aの対象となる小規模なビジネスには、オーナー社長の個人的な人間関係の上に成り立っているものがあります。こうした失敗を回避するためには、M&Aのどのプロセスが重要なのでしょうか。


失敗を回避するプロセス

本件のような失敗を回避するためには、対象のビジネスにおける顧客の属性やオーナー社長との関係を確認しておく必要があります。そして、それらの確認は次の図のプロセスで実施します。

失敗を回避するプロセス

具体的には、QAや両者面談のプロセスで顧客について売り手に確認する形です。本件では、オーナー夫婦が30年にわたって店舗を運営してきた事実から、顧客とオーナー夫婦の関係が属人的なものとなっているのではないか?と推測できます。こうした疑念について、QAや両者面談を利用して売り手に確認していくのです。


また、本件では引き継ぎ期間が1カ月しかありませんでした。仮に引き継ぎ期間を1年間として、取得後も当面はオーナー夫婦にお店に出てもらうことで顧客が離れるのを防げたかもしれません


以上のように、オーナー社長の個人的な人間関係の上に成り立っているビジネスは、案件検討の段階でその旨を把握し、引き継ぎなどを利用して顧客離れの対策を立てる必要があります。また、取引先、従業員がオーナー社長の個人的な人間関係の上に成り立っている場合もあります。確認漏れを防ぐために、あらかじめQAとして売り手に質問する事項をフォーマット化しておくのがおすすめです。


失敗例② 従業員の離職

失敗例②

2つ目の失敗例もM&Aの概要から確認していきましょう。

業種

​システムの受託開発事業

対象案件

エリア

東京都

規模

売上高1億円

買い手

​・上場している開発会社で様々な案件のプロジェクトマネージャーを経験

・これまでに構築したネットワークも利用して独立したいと考えていた

取得条件

​3000万円で株式の100%を取得

対象会社は10年の業歴を有する開発会社。既存顧客からの受注も安定しており、正社員として所属している7名のシステムエンジニアの技術力も申し分ありません。対象会社の規模は、買い手の経験からもマネジメントしやすいものであり、積極的に交渉を進めました。


また、オーナー社長の個人的な人間関係の上に成り立つ顧客、取引先、従業員はおらず、M&Aによりオーナー社長が会社を離れても大きな問題は起こらないと考えられる案件でした。売り手・買い手ともに相手方に対する印象も良く、M&Aのプロセスは順調に進みました。そして、今後のIT需要も見越して、買い手は3000万円で株式の100%を取得する決断をしました


取得後、買い手は上場会社で経験していたプロジェクトマネジメントの手法を導入し、開発の品質保証を図る取り組みも新たにスタートしました。また、和気あいあいとしていた社内風土を改め、スケジュール管理・タスク管理を徹底する風土を根付かせようとしました。


その結果、はじめのうちは開発プロジェクトがより円滑に進むようになりましたが、従業員が一人また一人と離職していきます。最終的に、取得時に7名いたシステムエンジニアは3名に減ってしまいました。その結果、売上が4000万円にまで下がり、取得対価である3000万円を回収する目処が立たなくなりました。


失敗の原因

本件の失敗原因は、買い手が対象会社の風土および開発環境を急激に変えようとした点にあります。上場会社の手法を取り入れて、より質の高い開発ができる環境を目指しましたが、風土および開発環境の変化が従業員に与える影響を正確に把握できていませんでした


技術力の高いシステムエンジニアは他社からも引く手あまたの状況もあり、従業員が転職してしまったのです。その結果、従来の規模を維持する人手が足りなくなり、売上高が縮小してしまいました。


M&Aは買い手と売り手の合意によってなされるため、従業員は社長交代という大きな出来事を突然知らされることになります。元オーナー社長による適切な引き継ぎがあれば、社長の交代そのものを理由として従業員が離職する可能性は低いですが、そこに労働環境の急激な変化が加わると離職リスクが高くなります


失敗を回避するプロセス

本件のような失敗を回避するためには、対象会社の風土をあらかじめ理解しておき、新しい施策を導入して労働環境を変化させる際も従業員との関係を構築してから徐々に行う必要があります。そして、それらの確認は次の図のプロセスで実施します。

失敗を回避するプロセス

具体的には、QAや両者面談のプロセスで社内風土を確認します。風土は言葉で表すのが難しい場合もあるため、次のような確認も効果的です。

  • 従業員の履歴書やスキルシートを用いて、どのような経歴・特性の従業員が多いか確認する

  • 売り手の承諾を得て、両者面談の際にオフィスを見学させてもらう

また、引き継ぎ期間を利用して、新しい施策の導入に関して元オーナー社長の意見を聞くことも失敗回避につながります。その上で、新しい社長として従業員と関係を構築し、新しい施策を徐々に導入する姿勢が重要です。


以上のように、対象案件に大きなリスクがない場合であっても、取得後に買い手が導入する施策が従業員の離職につながる場合があります。特にITのように人材の流動性が高い業界では、労働環境を変化させる施策は慎重に導入しましょう。M&Aにおいては、財務などの定量的な情報の分析のみならず、会社風土や従業員特性といった定性的な情報の確認も重要です。


失敗例③ 簿外債務の確認不足

失敗例③

3つ目の失敗例は、M&Aについて調べるときによく耳にする簿外債務に関するものです。まずは概要を確認してみましょう。

​業種

食品製造・卸売業

​対象案件

​エリア

愛知県

​規模

売上高2億円

​買い手

​・同種の食品製造業で営業および管理の経験を持つ

・地元に戻り、経験を活かしてビジネスを営みたいと考えていた

​取得条件

​2500万円で株式の100%を取得

対象会社は60年の歴史を有する地元の老舗食品製造会社です。長きにわたって積み重ねてきた顧客との信頼関係から受注も安定しており、正社員として30名の従業員が働く会社でした。各部署の業務も組織化されており、買い手としては、取得後、引き継ぎを経てそのまま安定稼働できる見込みでした。


売り手のオーナー社長は取引の時点で70歳を越えており、「事業を任せる相手が見つかって本当に安心した」と言ってくれたのです。買い手としても、財務分析の結果、売り手が望む2500万円を支払って取得して問題ない事業と判断し、交渉がまとまりました。最終的には、買い手が自ら作成した株式譲渡契約を締結し、クロージングも無事に終了しました。


会社を取得した後、元オーナー社長による引き継ぎにもスムーズに着手でき、ビジネスも順調に見えました。しかし、取得から1カ月経過した時に、従業員から未払い残業代の請求がなされました。驚いた買い手が過去の残業代の支払い状況を調べてみると、30名の従業員全員に対して残業代を適切に支給していない事実が見つかったのです。その結果、3年間にわたる30名分の残業代として合計で3000万円の支払いが必要となり、会社のキャッシュが大きく減りました。


失敗の原因

本件の失敗原因は、典型的な簿外債務である未払い残業代の確認を怠った点にあります。また、最終契約である株式譲渡契約を買い手自ら作成しており、そこに専門家のレビューが入っていなかった点も失敗原因です。


元オーナー社長と従業員の関係性から、これまでは残業代の未払い請求がなされていなかっただけで、社長交代と同時に請求されてしまった例です。このように会社を丸ごと取得する株式譲渡の場合は、簿外債務のリスクがあります


失敗を回避するプロセス

本件のような失敗を回避するためには、リスクコントロールに関する次のたてつけをイメージする必要があります。

  • 簿外債務の有無について、売り手に質問し、デューデリジェンスでも確認する

  • 取得後に簿外債務が発覚した場合に備えて、最終契約でリスクコントロールする

簿外債務について確認するプロセスは次の通りです。

失敗を回避するプロセス

はじめに、QAを用いて次のような簿外債務がないか、売り手に質問します。

  • 未払い残業代

  • 退職給付引当金

  • 賞与引当金

  • 未払社会保険料

  • リース債務

  • 債務保証

  • 訴訟リスク

次に、デューデリジェンスにおいて専門家の目で簿外債務の有無をチェックします。個人M&Aの場合、法人同士のM&Aで行われるようなフルパッケージのデューデリジェンスを行うのは現実的ではないため、要点をしぼって実施します。ここまでのプロセスで簿外債務が見つかった場合、簿外債務の金額を取得対価から控除したり、対象会社の検討を見送りにしたりします


簿外債務が見つからなかった場合でも、最後に、最終契約にリスクをコントロールする条項を定めます。これは、デューデリジェンスを実施しても全ての簿外債務を見つけられるわけではないためです。デューデリジェンスは、リスクをゼロにするために行うのではなく、対象会社においてリスクの高いポイントを把握するために行います


最終契約では、「簿外債務がないこと」を売り手に表明保証してもらいます。そして、万が一、M&Aした後に簿外債務が発覚した場合に備えて、表明保証違反に基づく契約解除や損害賠償に関する条項も定めます。ここまで行って初めて簿外債務のリスクをコントロールして対象会社を取得できるのです。


以上のように、個人M&Aにおいても簿外債務の確認と対処は重要です。中には、売り手にも悪意がなく、簿外債務を簿外債務として認識していないだけの場合もあります。売り手がどんなに信頼できる人物だとしても、自らを守るために簿外債務の確認と対処を徹底しましょう。


個人M&Aの失敗を回避する3つのコツ

失敗回避の3つのコツ

ここまで個人M&Aの失敗例3つを解説しました。それぞれについて、失敗原因と失敗を回避するイメージがつかめたでしょうか?個人M&Aの失敗は、多くの場合、プロセスを丁寧に進めることが回避できます。


記事の最後に、ここまでの振り返りもふまえて個人M&Aの失敗を回避する3つのコツを解説します。


M&Aの各プロセスで何を確認するか理解

1つ目は、ここまで解説した内容と重なる部分もありますが、M&Aの各プロセスの目的を理解することです。特に各プロセスで何を確認し、どのような状態で次のプロセスに進むべきかイメージできるようになりましょう。


3つの失敗例でも解説した通り、M&Aの各プロセスは対象会社のリスクを見抜くために活用できます。本記事で解説した各プロセスの役割を念頭においてM&Aを進めてみてください。


デューデリジェンスと最終契約の重要性を理解

2つ目は、デューデリジェンスと最終契約を上手く使いこなすことです。個人M&Aの場合、案件の検討は買い手1人で行わなければならない場合も多いでしょう。特に、初めてM&Aに望む場合、対象案件を確認するポイントを網羅的にイメージできていない場合もあります。


そうした場合に、専門家の目で案件を確認するデューデリジェンスのプロセスは重要です。個人M&A向けのデューデリジェンスには数十万円から利用可能なものもあります。数十万円の出費で将来のリスクを回避できる可能性が高まることには意義があるはずです。


また、失敗例③でも解説した通り、デューデリジェンスで発見したリスクをコントロールするのは最終契約です。最終契約のひな形はインターネットから手に入れることもできますが、案件に応じて条項をアレンジしなければなりません。そのため、買い手1人で最終契約を作成せず、弁護士などの専門家のレビューを入れるようにしましょう。


元オーナー社長に引き継ぎを依頼

3つ目は、元オーナー社長による引き継ぎ期間を十分に確保することです。個人M&Aの失敗の中には、取得後に対象会社のビジネスや組織が崩れたために起こるものがあります。顧客、取引先、従業員が離れていくと、これまでのビジネスを維持できなくなります。


会社のステークホルダーにとってM&Aは決して小さな出来事ではありません。突然の社長交代を告げられた顧客、取引先、従業員が戸惑うケースもあります。これらの事態を回避するためには、元オーナー社長にしっかりと引き継ぎを依頼しましょう。そして、引き継ぎ期間の中で、新しい経営者として紹介してもらい、ステークホルダーとの信頼を形成していく必要があります


まとめ

本記事では、個人の買い手向けにM&Aの失敗例を3つ紹介しました。次の3つは個人M&Aにおいても起こりうる典型的な失敗のため、案件検討時に注意しましょう。

  • ビジネスが元オーナー社長に依存しており、M&Aの後に顧客などが離れてしまう

  • M&Aの後、大掛かりな改善に着手し、従業員が離職してしまう

  • M&Aの後、未払い残業代などの簿外債務が発覚する

しかし、いずれの失敗もM&Aのプロセスを丁寧に進めることで回避できます。財務をはじめとした定量的な情報の分析のみならず、顧客や従業員の特性、社内風土といった定性的な情報もQAを利用して売り手に確認していきましょう。


簿外債務はQAおよびデューデリジェンスで確認し、発覚した場合は取得対価を調整したり、案件の検討を見送りにしたりして対応します。また、簿外債務が見つからなかった場合も、M&A後の発覚に備えて最終契約に専門家のレビューを入れて、リスクコントロールしていきましょう。


M&Aの各プロセスの役割を把握し、使いこなせるようになるとリスクを適切にコントロールした状態で成約できます。


「個人M&Aなら、M&Acompass」

M&Acompassは、個人M&Aの買い手に対する伴走支援です。これまでM&Aの専門家のサポートが十分に届いていなかった個人の買い手向けの伴走支援であり、個人M&Aの成約を目指すためのM&A戦略立案・案件探しといった初期的な工程からクロージングまでを支援するサービスです。


「M&Acompass」では、毎週さまざまなテーマでセミナーを開催しています。


また、伴走支援の一部を体験していただく趣旨で、オンライン無料体験会も開催しています。個人M&Aに関する疑問や課題に対して、現役のM&Aコンサルタントが提案・アドバイスさせていただきます。オンライン無料体験会もお気軽にご活用ください!


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