個人の買い手がM&Aで払う手数料の全体像

手数料は3種類に分け、それ以外の費用も押さえる

個人の買い手がM&Aで払う費用のうち、手数料にあたるものは「誰に払うか」で3つに分けると整理しやすくなります。

  • プラットフォーム利用料:案件を探すサイトに払う費用
  • 仲介会社・アドバイザーの報酬:相手探し、交渉、手続きの進行を任せた相手に払う費用
  • 専門家の費用:税理士・弁護士・司法書士などに、調査や契約書の確認、登記を個別に頼んだときの費用

この3つは、進め方によって全部かかることも、一部だけで済むこともあります。なお、役員変更の登記にかかる登録免許税や、店舗・事務所の賃貸借契約を引き継ぐときの敷金・名義変更の費用など、この3つに入らない費用もあります。

進め方主にかかる費用
プラットフォームだけで自分で進める利用料+必要に応じて専門家の費用
仲介会社やアドバイザーに任せる報酬+必要に応じて専門家の費用(プラットフォーム経由なら利用料も)
専門家に部分的に依頼する依頼した範囲の費用だけ

「仲介に任せたから専門家の費用はかからない」とは限りません。仲介会社の報酬に、調査や契約書の作成がどこまで含まれるかは契約ごとに違うためです。

誰に払うか・いつ払うかを場面ごとに整理する

費用は一度にまとめて払うのではなく、案件の進み方に応じて場面ごとに発生します。買い手の流れ全体は個人で会社を買う方法(流れ・期間・準備)で整理していますが、ここでは手数料が出る場面だけを並べます。

場面発生しうる費用払う相手
登録・案件探し登録料や月額の利用料(サービスによる)プラットフォーム
面談・交渉の開始着手金、月ごとの報酬(契約による)仲介会社・アドバイザー
基本合意中間報酬(契約による)仲介会社・アドバイザー
DD(買収前の調査)・最終契約調査の費用、契約書の確認費用税理士・弁護士など
最終契約の締結〜決済・引き継ぎ成功報酬(成約後。多くは決済後だが、成約の定義と期限は契約による)、登記の費用(登録免許税・司法書士の報酬)、賃貸借契約の切り替えにかかる費用など仲介会社・アドバイザー、プラットフォーム、司法書士、法務局、貸主

成功報酬は成約後に払う形が多く、M&Acompassの実務の経験則では決済後に支払うことが多く見られます。「成約」が最終契約の締結を指すか決済を指すか、支払の具体的な期限は契約や利用規約で確かめてください。一方、着手金や中間報酬は、成約するかどうかが決まる前に発生します。どの場面で何を払うかを先に把握しておくと、途中で破談になったときに残る費用も見通せます。

売り手の手数料とは別に決まる

買い手の手数料は、売り手が何を払っているかとは関係なく、買い手自身が契約した相手との契約で決まります。仲介会社の場合は、売り手と買い手の両方と契約し、それぞれから報酬を受け取る形が多いです。売り手側が無料のサービスでも、買い手側には別に利用料がかかることがあります。

そのため、「売り手が払っているから自分は不要」と思い込まず、プラットフォーム、仲介会社、専門家のそれぞれと、自分が何を払うのかを契約ごとに確かめることが出発点になります。

プラットフォームと仲介会社の手数料で確認する項目

手数料は「率」の数字だけでは比べられません。何を基準に、いつ、いくら払うのかを項目ごとに分けて確かめると、サービスごとの違いが見えてきます。ここでは、プラットフォームと仲介会社(アドバイザー)に分けて、確認する項目を整理します。

プラットフォームは「成功報酬型」か「月額制」かをまず確かめる

プラットフォームの買い手手数料は、大きく2つの型に分かれます。

  • 成功報酬型:成約したときに、譲渡価格に一定の率を掛けた額を払う形が多いです。ただし最低額が決まっているサービスもあり、小規模案件では最低額が適用されることがあります。成約に至らなければ、原則として負担はありません。支払う時期は成約後が多く、M&Acompassの実務の経験則では決済後に支払うことが多く見られます。「成約」が最終契約の締結を指すか決済を指すか、支払の期限はサービスごとに異なるため利用規約で確かめてください。
  • 月額制:月ごとの利用料を払い、成約時の成功報酬がない形です。プランによって金額が変わるだけでなく、できることも変わります。

月額制では、見られる情報の範囲や売り手に連絡できる数がプランで変わることがあります。「安いプランで始めたが、必要な機能が使えなかった」とならないよう、どのプランで何ができるかを先に確かめましょう。

仲介会社は「レーマン方式の基準」と「付随する報酬」を確かめる

仲介会社の報酬の計算には、多くの会社がレーマン方式を使っています。レーマン方式とは、基準となる金額に、金額の大きさに応じて段階的に下がる率を掛けて計算する方式です。

ここで見落としやすいのが、基準になる金額の違いです。基準が「総資産(負債を含む)」なのか「株式の価格(譲渡価格)」なのかで、同じ案件でも手数料が大きく変わります。契約書に「総資産レーマン」「株価レーマン」のどちらが書かれているかを確かめてください。

成功報酬のほかに、次の報酬が付くことがあります。有無と金額を、契約前に一つずつ確かめましょう。

  • 着手金(契約時に払う)
  • 月額のリテイナーフィー(毎月払う)
  • 中間報酬(基本合意などの節目で払う)
  • 最低報酬(計算した額が小さくても、下限として払う)

M&Acompassの実務の視点

個人の買い手が「率」だけを見て判断し、後から困ったという例は、実はあまり見かけません。困るのはむしろ、型や項目の違いを理解しないまま進めたときです。プラットフォームは成功報酬型と月額制があり、月額制はプランで金額も中身も変わります。仲介会社は総資産レーマンか株価レーマンか、着手金・リテイナーフィー・節目で払う報酬・最低報酬の有無と金額が会社ごとに違います。どちらを使う場合も、事前に確認し、理解したうえで進めることを勧めています。

確認項目を一覧にして比べる

候補のサービスを並べるときは、次の表の項目を埋めてから比べると、違いが整理できます。

確認項目プラットフォーム(成功報酬型)プラットフォーム(月額制)仲介会社・アドバイザー
払う時期成約後(成約の定義と期限は規約で確認)毎月契約時・節目・成約後(契約で定める)
基準になる金額譲渡価格プランの月額総資産か株価か(契約で定める)
着手金・月額原則なし月額あり有無を確認
中間報酬原則なしなし有無を確認
最低報酬有無を確認なし有無と金額を確認
成約しなかったときの負担原則なし払った月額着手金・月額の扱いを契約で確認

表は一般的な傾向をまとめたもので(主要なプラットフォーム・仲介会社の公式ページを2026年10月に確認)、実際の料金はサービスごとに異なります。率や月額、最低報酬の金額は、各サービスの公式ページで時点とともに確かめてください。料金の改定は珍しくないため、契約の直前にもう一度見直すと安心です。

レーマン方式と最低報酬|小規模案件で手数料が重くなる理由

レーマン方式の計算のしくみ

レーマン方式とは、取引金額を区分に分け、区分ごとに決まった率を掛けて合計する計算方法です。金額が大きいほど率が下がる階段のような形になっています。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」では、次のような率の例が示されています。

基準となる金額の区分率
5億円以下の部分5%
5億円超〜10億円以下の部分4%
10億円超〜50億円以下の部分3%
50億円超〜100億円以下の部分2%
100億円超の部分1%

個人の買い手が見る数百万円から数千万円の案件は、ほぼ「5億円以下」の区分に収まります。つまり、率だけで計算すれば手数料は譲渡価格の5%前後です。なお、率を掛ける基準額が譲渡価格なのか総資産なのかで金額は変わります。

最低報酬があると数百万円の案件では割合が重くなる

問題は率ではなく「最低報酬」です。仲介会社やアドバイザーの中には、率で計算した額が小さいときの下限として最低報酬を設けているところがあります。

M&Acompassが評価した累計122件(2026年9月時点)では、譲渡希望価格の中央値は美容・理容で300万円、教育サービスで350万円でした。この価格帯では、率で計算した額より最低報酬のほうが大きくなりやすいのです。

架空の例

譲渡価格300万円の案件を、率5%・最低報酬100万円の仲介契約で進めたとします。率で計算すると15万円ですが、最低報酬が適用されて100万円になります。譲渡価格の3分の1が手数料に消える計算です。もし最低報酬が300万円なら、手数料は譲渡価格と同額になります。

最低報酬の額そのものは会社ごとに違います。ただ、「小さな案件ほど、価格に対する手数料の割合が重くなる」という構造は共通です。

取得にかかる全コストを合計してから判断する

手数料が重いからといって、その案件を諦めるべきとは限りません。大切なのは、譲渡価格だけで判断しないことです。手数料、調査や契約書の確認にかかる費用、その案件で必要になるほかの費用、引き継ぎ後の運転資金まで足した総額で考えます。

価格の目安を年買法で小さな会社の価格を見る記事で確かめるときも、同じです。利益の何年分という見方は譲渡価格に対するものなので、手数料を足した「実際に出ていくお金」で何年分になるかを別に見ておきます。

M&Acompassの実務の視点

最低報酬の確認は、案件を本格的に検討する前、つまり仲介会社に相談したりプラットフォームに登録したりする最初の段階で行うべきだと考えています。検討の途中で初めて知ると、それまでの時間が無駄になりかねません。個人の買い手は、検討や取得に必要なすべてのコストを踏まえたうえで、投資すべき案件かどうかを判断する必要があります。手数料は、その判断材料の一つとして最初から数字に入れておきます。

確認のしかたは難しくありません。「最低報酬はありますか」「いくらですか」「基準額は何ですか」の3点を、最初の問い合わせで聞くだけです。対策として、答えを書面やメールで残しておくと、後の行き違いを防げます。

着手金・中間報酬・リテイナーフィー|契約前に確かめること

仲介会社やアドバイザーの手数料は、成功報酬だけではありません。成約の前に払う費用があると、破談になっても手元から出ていくお金が生じます。ここでは、契約を結ぶ前に確かめておきたい点を整理します。

支払う時期と破談になったときの扱い

成約前に払う費用は、それぞれ払う時期が違います。

費用払う時期の例破談になったとき
着手金アドバイザリー契約を結んだとき戻らない前提で考える
中間報酬基本合意書を結んだとき戻らない前提で考える
リテイナーフィー(月額報酬)契約期間中、毎月払った分は戻らない前提で考える

着手金は契約時、中間報酬は基本合意時、リテイナーフィーは毎月払う形が多く見られます。

破談になったとき、成約前に払った費用は通常戻りません。返金されない前提で予算を組んでおきます。もし返金規定があるなら、その有無と内容(どの段階まで・いくら戻るか)を契約前に確認しておきましょう。

成功報酬に充当されるかどうか

着手金や中間報酬が成功報酬に充当されるか(成功報酬から差し引かれるか)は、契約前に確認しておきたい点です。充当されない契約では、成功報酬に着手金と中間報酬が上乗せされ、払う総額が増えます。同じ成功報酬の率でも、充当の有無で実際の負担は変わります。

契約前に確かめる5項目

確認した内容は、担当者の口頭の説明ではなく、アドバイザリー契約書やプラットフォームの利用規約の条文で確かめます。説明と条文が食い違っていれば、条文を直してもらうか、書面で補足を出してもらいましょう。

  • 着手金・中間報酬・リテイナーフィーの有無と金額
  • それぞれを払う時期(契約時・基本合意時・毎月)
  • 破談になったときの扱いと、返金規定の有無・内容
  • 着手金や中間報酬が成功報酬に充当されるかどうか
  • 契約期間と途中で解約するときの条件(リテイナーフィーがいつまで発生するか)

手数料以外にかかる費用|DD・契約書の確認・登記など

仲介会社やプラットフォームに払う手数料とは別に、専門家に払う費用や、手続そのものにかかる費用があります。例えば、DD(デューデリジェンス:買収前の調査)の専門家費用、契約書の確認費用、登記や許認可の手続費用があります。このほか、店舗や事務所の賃貸借契約を引き継ぐときに、敷金や名義変更の費用が生じることもあります。何がどのくらいかかるかは、案件の内容によって異なります。小規模案件では、これらが手数料と同じくらいの重さになることもあります。

DDの専門家費用:範囲は「予想外が残るか」で決める

DDは、基本合意の後、最終契約の前に行う形が多い調査です。費用は、どの範囲をどの専門家に頼むかで大きく変わります。

ここで、範囲を譲渡価格の大小で決めないことが大切です。判断の基準は、取得後に取り返しのつかない「予想外」が残っていないかどうかです。価格が数百万円でも、引き継いだ後に知った負債や契約の縛りは取り消せません。

費用を抑えるには、まず自分で決算書や契約書を読み、分かったことと分からなかった論点を整理します。そのうえで、分からなかった論点だけを専門家に依頼する進め方が向いています。調査の種類や進め方は、個人M&AのDDの種類・費用・期間で詳しく説明しています。

契約書の確認費用:依頼する内容で金額が変わる

契約書の確認費用は、「必要とは分かっているが、いくらかかるのか分からない」という相談が多い代表的な費用です。実務でも一概な金額感はなく、依頼する弁護士などのスタンスや専門性で変わります。

また、何を頼むかでも金額は変わります。

  • 契約書の作成から依頼する
  • 作成済みの契約書のレビュー(確認)だけを依頼する
  • 登記手続などクロージング(決済)の準備まで支援してもらう

M&Acompassの実務の視点

何らかの形で契約書をそれなりに確認してもらうなら、契約書ごとに5〜10万円程度が目安とされることが多く、その程度はかかるという認識を持っておくことを勧めています。見積もりが取りにくい費用だからこそ、依頼する範囲を先に決めてから相談すると、金額の見通しが立ちやすくなります。

必要になる契約書の種類は、個人M&Aで必要な契約書の流れにまとめています。

登記・許認可など取得後の手続費用

株式譲渡で役員が交代すると役員変更の登記が必要で、登録免許税のほか、司法書士に依頼すれば報酬もかかります。事業譲渡では許認可が自動的に引き継がれず、取り直しや届出が必要な業種があります。手続の有無と費用は、最終契約の前に確かめておきます。

見落としやすい費用の一覧と予算の見方

費用依頼先発生する時期予算の見方
DDの専門家費用税理士・公認会計士・弁護士など基本合意の後〜最終契約の前自分で分からなかった論点の数と深さで決まる
契約書の確認費用弁護士など最終契約の前依頼内容で変わる。1件あたり5〜10万円程度が目安
登記・許認可の手続費用司法書士・行政書士など決済の前後税金・手数料と専門家の報酬を分けて見積もる
賃貸借契約の切り替えにかかる費用貸主・不動産会社決済の前後契約の引き継ぎ条件と敷金・名義変更の扱いを貸主に確かめて見積もる
進め方や条件の整理の相談M&Aアドバイザー検討の初めから支援してほしい内容で変わる

相談先は、税理士・弁護士・司法書士に加えて、譲渡の進め方や相手との条件の整理を担うM&Aアドバイザーも並べて考えると、どの費用を誰に払うのかが整理しやすくなります。

自分で進めるか、アドバイザーに任せるかの決め方

判断の基準は経験・時間・予算の3つ

手数料の額だけで決めると、安く済んだ代わりに交渉や手続きで行き詰まることがあります。M&Aの経験の有無、交渉や書類のやり取りに使える時間、専門家とのやり取りの慣れを合わせて考えます。M&Aが未経験なら、アドバイザーのサポートを受けたほうが成功する確率は高まると考えています。予算に余裕があれば、活用を勧めます。

基準自分で進めやすい人アドバイザーを頼ったほうがよい人
経験契約や交渉の経験があるM&Aが初めてで流れが分からない
時間平日に連絡や面談の時間を取れる本業が忙しく、やり取りが後回しになりがち
予算限られた予算の中で優先順位をつけたい専門家費用を個別に払う余力がある

表はあくまで目安で、3つがすべて片側にそろうことは多くありません。

優先順位を決めてから相談する

アドバイザーの費用とサポート内容は表裏一体です。「全部任せる」か「自分でやる」かの二択で考える必要はありません。予算に制約があるときは、サポートしてほしい内容に順位をつけてから相談してください。例えば、相手探しは自分で進め、条件交渉と契約書の確認だけを頼む、といった分け方です。順位を伝えたうえで相談すると、自分に合った費用と内容でサポートを受けられる可能性が高まります。

費用は資金計画に最初から組み込む

手数料や専門家費用は、譲渡価格とは別にかかる費用で、融資の対象に含められるかは金融機関や案件によって異なるため、自己資金で払う前提で見ておくと安全です。譲渡価格だけで資金計画を立てると、契約の直前に資金が足りなくなるおそれがあります。対策として、検討を始める段階で、手数料・DD・契約書の確認・登記・賃貸借契約の切り替えなど、その案件で見込まれる費用を一覧にして、自己資金と借入の内訳に入れておきます。案件の内容によってはこれ以外の費用がかかることもあるため、気づいた費用はその都度一覧に足していきます。自己資金の目安や借入の考え方は「スモールM&Aの融資と資金の集め方|個人で会社を買う自己資金の目安」で説明しています。

参考にした資料