【個人買い手】M&Aのシナジー|種類とフレームワーク・3つの成功事例を紹介
更新日:5月29日
M&Aを検討していると、シナジーという言葉をよく耳にします。シナジーとは、「1+1により、2を超えた価値を実現する」ような意味合いで使われます。しかし、シナジーの種類や具体例を明確にイメージできていないケースも多いでしょう。
本記事では、シナジーの意味、種類をまとめた上で、シナジーを検討する際に有用なフレームワーク「アンゾフの成長マトリクス」について解説します。さらに、シナジーの側面から個人M&Aの成功事例も紹介します。
種類、フレームワーク、事例というさまざまな切り口からシナジーを解説するので、あなたのM&Aにおけるシナジーを見つける参考になるはずです。
また、売り手に対して的確にシナジーを提案できると、他の買い手よりも交渉を有利に進められる場合もあります。ぜひ最後まで読んでみてください。
【目次】
シナジーとは?
はじめに、シナジーという言葉について解説します。分かるようで分かりにくい「シナジー」という言葉を正確に理解し、あなたのM&Aにおけるシナジーを考える土台を作りましょう。
シナジーという言葉の起源
そもそもシナジーとは、生理学で用いられる言葉でした。生理学において「シナジー」とは、特定の動作の際に、複数の神経や筋肉が連動・協働して得られる相乗効果を指します。
このように生理学においても、シナジーは、複数の要素の交わりによって実現される相乗効果を指す言葉でした。そして、経営戦略の父と呼ばれるイゴール・アンゾフ氏により、シナジーという言葉が経営やビジネスでも使われるようになっていきます。
M&Aにおけるシナジー
経営やビジネスに関連して使われるようになったシナジーという言葉は、M&Aにおいても頻繁に使われます。それは、「複数の要素の交わり」という点において、M&Aほど顕著な例がないためだと考えられます。
これは個人の買い手が行う小規模なM&Aでも同様です。売り手の努力で軌道に乗ったビジネスに、個人の買い手のスキル・知見・ネットワークが加わることで生まれる相乗効果は、まさにシナジーです。
例えば、優れた商品・サービスを開発できるものの、営業が苦手という売り手は少なくありません。営業に強い買い手が、こうした会社を取得するとシナジーが期待できます。
また、経理・財務・総務・法務をはじめとする経営管理業務がオーナー社長のリソースを圧迫している場合、それらの業務を買い手がフォローし、元オーナー社長には営業に集中してもらい、売上を高めるという例もあります。
このように、M&Aにおいてシナジーを実現できるかどうかは、売り手と買い手が互いの不足を補えるかどうかの相性に左右されます。これらの相性を正確に把握するために、以下では、M&Aにおけるシナジーの種類を解説します。
M&Aにおいて、一般的にどのようなシナジーが想定できるかを把握した上で、あなたのM&Aにおけるシナジーをイメージしていきましょう。
M&Aにおける4種類のシナジー
ここからは、M&Aにおける次の4種類のシナジーを解説します。
購買におけるシナジー
生産におけるシナジー
物流におけるシナジー
販売におけるシナジー
購買→生産→物流→販売というビジネスの一連の流れに沿ってシナジーを解説するので、あなたのM&Aにおけるシナジーを見極める参考にしてください。
購買におけるシナジー
事業規模が大きくなるほど、単位あたりのコストが低下することを「規模の経済」と呼びます。
法人同士のM&Aでは、M&Aによる仕入高の増加を理由に、仕入代金の値引き交渉に成功できる場合があります。また、購買のルートをより有利なものに一元化する場合もあります。このように、原材料、部品、人材などに関する調達業務を安定化・効率化させるのが購買におけるシナジーです。
個人M&Aの場合は、買い手の知見・スキル・ネットワークを活用して、仕入先を変更したり、新規開拓したりするケースがあります。
生産におけるシナジー
生産におけるシナジーには、さまざまな種類があります。
例えば、法人同士のM&Aでは、生産設備の稼働率を向上させたり、遊休設備を稼働させたりして、生産能力の向上を図ります。また、外注していた生産業務を内製化してコストダウンにつなげる場合もあります。より大きな視点では、生産拠点の統廃合から生まれる相乗効果も生産におけるシナジーに含まれます。
個人M&Aの場合、上述したような大掛かりなシナジーを得ることは容易ではありません。一方で、生産に関連するノウハウや技術を共有して、業務効率化を目指すことができます。
物流におけるシナジー
物流におけるシナジーを得るためにも、さまざまな切り口があります。
例えば、法人同士のM&Aでは、物流ライン、倉庫、物流システムおよび人材を共有できると、設備の維持運用費、倉庫の地代家賃、システムの維持運用費および人件費を削減につながります。2つの会社の繁忙期にずれがある場合は、人繰りの最適化によりインパクトのあるコストダウンを実現できる場合もあります。また、配送ボリューム増加を理由に、配送費の値引き交渉に成功できる場合もあります。
個人M&Aの場合、上述したような大掛かりなシナジーを得ることは容易ではありません。しかし、配送を委託している業者の変更や新規開拓、物流に関連するノウハウや技術を共有により業務効率化を目指すことができます。
販売におけるシナジー
販売におけるシナジーは、最もイメージしやすいシナジーかもしれません。
法人同士のM&Aでは、複数の企業が有する販売網を相互活用したり、複数の企業が有する商材を組み合わせてクロスセル・アップセルを実現したりして、シナジーを実現します。また、M&Aによりブランド力が向上する場合もあります。より大きな視点では、マーケティング戦略の統合、販売拠点の統廃合から生まれる相乗効果も販売におけるシナジーに含まれます。
個人M&Aの場合、営業が得意な買い手が販売先の新規開拓を実現する形でシナジーを目指す場合があります。また、実店舗のみだった商品の販売動線にECサイトという動線を追加するケースもあります。
シナジー検討のフレームワーク「アンゾフの成長マトリクス」
ここまでの内容で、M&Aにおけるシナジーにどのような種類があるかイメージできたでしょうか。
どのようなシナジーが発生するかは、売り手と買い手の個性や相性による部分もあります。シナジーを正確に検討するためには、まずは売り手と買い手の知見・スキル・ネットワークの整理・棚卸しから始めると良いでしょう。
そして、M&Aにおけるシナジーを検討するためには「アンゾフの成長マトリクス」というフレームワークの活用をおすすめします。
「アンゾフの成長マトリクス」は、シナジーという言葉を経営やビジネスの場に浸透させたイゴール・アンゾフ氏が提唱したもので、事業成長の戦略を検討する際に用いられます。
上記の画像の通り、横軸は「既存市場」「新市場」からなり、縦軸は「既存製品」「新製品」からなります。これを利用して、本フレームワークでは、事業成長の戦略を次の4つのパターンに分けて検討します。
「既存製品」×「既存市場」の場合は「市場浸透戦略」
「既存製品」×「新市場」の場合は「新市場開拓戦略」
「新製品」×「既存市場」の場合は「新製品開発戦略」
「新製品」×「新市場」の場合は「多角化戦略」
これは個人M&Aにおけるシナジーを検討する際の参考にもなります。以下で、それぞれの領域において、具体的にどのようなシナジーが想定されるかも含めて解説します。
「既存製品」×「既存市場」の場合は「市場浸透戦略」
同種の製品を同一のエリアで販売するようなM&Aの場合は、市場浸透戦略を検討していきます。買い手と売り手が同種の商材を関東で販売してきたような場合です。
この場合は、次の観点からシナジーを検討していきましょう。
クロスセルによる売上高の拡大
仕入先の変更および統廃合、新規開拓によるコストダウン
組織と業務の合理化、ノウハウの共有によるコストダウン
売上高の拡大とコストダウンについても、短期的に実現できるものと中長期的に実現できるものを分けて検討してみてください。
「既存製品」×「新市場」の場合は「新市場開拓戦略」
同種の製品を、これまでとは異なるエリアで販売するようなM&Aの場合は、新市場開拓戦略を検討していきます。買い手と売り手が同種の商材を販売してきた経験を有するものの、販売エリアが関東と関西のように異なっている場合です。また、同一エリアであっても顧客層が異なる場合も含まれます。
この場合は、次の観点からシナジーを検討していきましょう。
売り手の製品を買い手のネットワークに乗せて売上高を拡大
仕入先の変更および統廃合、新規開拓によるコストダウン
組織と業務の合理化、ノウハウの共有によるコストダウン
こちらの場合も、シナジーについて、短期的に実現できるものと中長期的に実現できるものを整理し、優先順位を付けて取り組みましょう。
「新製品」×「既存市場」の場合は「新製品開発戦略」
新しい製品を同一のエリアで販売するようなM&Aの場合は、新製品開発戦略を検討していきます。買い手と売り手が異なる製品を扱っているものの、販売エリアは共に関東のような場合です。
個人M&Aでは、買い手は自らのビジネスをスタートさせていない状態で会社や事業を取得する場合もあります。その際は、買い手がこれまでに経験を積んだ製品を基準として、売り手の扱う製品との異同を確認します。
そして、新製品開発戦略では、次の観点からシナジーを検討していきましょう。
クロスセル・アップセルによる売上高の拡大
製品ラインナップの拡充によるブランド力の向上
開発ノウハウの共有による商材開発力の向上
組織と業務の合理化、ノウハウの共有によるコストダウン
買い手と売り手がこれまでに扱ってきた商材が同一ではないものの、近い位置にある場合は、双方のネットワークを活用してクロスセルを積極的に狙うことができるでしょう。
「新製品」×「新市場」の場合は「多角化戦略」
新しい製品を、これまでとは異なるエリアで販売するようなM&Aの場合は、多角化戦略を検討していきます。買い手と売り手が、商材および販売エリアの両方で異なる場合です。
この場合は、次の観点からシナジーを検討していきましょう。
クロスセル・アップセルによる売上高の拡大
製品ラインナップの拡充によるブランド力の向上
サプライチェーンの拡大によるコストダウン
組織と業務の合理化、ノウハウの共有によるコストダウン
買い手と売り手の商材および販売エリアの両方が異なる場合、シナジーの短期的な実現が難しい場合もあります。そのため、既存事業の売上高と利益を安定させながら、双方のノウハウを整理して、中長期的なシナジーを実現できる方法を探っていきましょう。
シナジーの側面からみる個人M&Aの3つの成約事例
ここからは、私たちがこれまでにM&Aを支援・インタビューした成功事例をシナジー別に整理して紹介します。各買い手がどのようなシナジーを想定して、M&Aを成約させたのか確認してみてください。
事例①:自らのスキルを活かしてメディアの利益を倍増
1つ目に紹介するのは、Webマーケターとしての知見・スキルを持つ買い手が、メディア運営事業を取得した事例です。
買い手の福森さんは、フリーランスとしてWebマーケティングおよびWebライティングのビジネスを営んでおり、事業拡大のためにWebメディアを取得しました。
福森さんは、M&Aプラットフォームを活用して、伸びしろのあるメディアを探し、最終的には、買い手企業が運営にそこまで力を入れていなかったメディアを取得します。
取得後、福森さんはマーケターおよびライターの知見とスキルをフル活用して、次の改善を実施し、短期間でメディアの利益を2倍以上に成長させています。
既存記事の修正
新規コンテンツの作成と公開
「自分の知見やスキルを活用して、メディアを成長させるイメージが最初からあった」との言葉の通り、M&Aの交渉の段階からシナジーをイメージした上で、それを的確に実現した好事例です。
福森さんの成功事例の詳細は、以下の記事にまとめているのでぜひご確認ください!
事例②:買い手と売り手で業務を分担し、売上高アップを目指す
2つ目に紹介するのは、プライベートエクイティ・ファンドのマネージャーとしての経験を有する買い手が、個人向けライブ配信サービスの開発・運営事業を取得した事例です。
買い手のBさんは、過去にエンターテイメント事業に携わった経験もあり、「エンタメ事業」「将来の成長性」という観点で案件を探しました。
本件における売り手の元オーナー社長は、優れたWebサービスの開発ができる高い技術を備えている一方で、営業や経営管理には苦手意識があったといいます。そこで、買い手のBさんは、自らのファンドでの経験を活かして、優れたサービスの販売を拡大できると考えました。
取得後の現在は、3年後の事業売却を見据えて、Bさんと元オーナー社長で次のような役割分担をしながら、事業の成長にコミットしているとのことです。
Bさん(買い手):経営企画、経営管理、営業、マーケティング
元オーナー社長(売り手):開発、サービス運用
ファンドマネージャーならではの知見とスキルをフル活用して、成長性の高い案件を取得した好事例です。
Bさんの成功事例の詳細は、以下の記事にまとめているのでぜひご確認ください!
事例③:販路拡大、商品仕入れに買い手のノウハウを活用
3つ目に紹介するのは、大手建設会社で海外勤務・マネジメントの経験を有する買い手が、海外製品を輸入して日本国内で販売するEC事業を取得した事例です。
買い手のAさんは、建設会社で海外業務を主に担当しており、アジア各国に赴任していた期間も長いことから、海外の優れた製品を日本で販売する会社/事業を探していました。
本件における売り手の元オーナー社長は、コンセプトが一貫しており、優れたデザインのECサイトを開発・運営していましたが、売上高のさらなる拡大にはハードルを感じていたといいます。そこで、買い手のAさんは、大手建設会社における売上高拡大、マネジメント、海外仕入れの経験を活かし、本件事業をさらに成長させられると考えました。
取得後の現在は、さらなる事業成長を見据えて、元オーナー社長にも社員として残ってもらい、次のような役割分担をしながら販路拡大や商品ラインナップの拡充に努めているとのことです。
Aさん(買い手):経営企画、経営管理、営業、仕入れ、広告戦略の立案と実行
元オーナー社長(売り手):ECサイトの運用
異業種M&Aを実現し、買い手と売り手の知見を相互活用して成長を目指す好事例です。
Aさんの成功事例の詳細は、以下の記事にまとめているのでぜひご確認ください!
シナジーを見極めるための交渉のポイント
ここまで、シナジーの種類、フレームワーク、事例を紹介してきましたが、シナジーを見つけるポイントをイメージできたでしょうか。
多くの場合、買い手の知見・スキル・ネットワークを用いて、売り手の課題を解決することでシナジーを実現できます。そのため、M&Aにおけるシナジーを見極めるためには、売り手が抱える課題を正確に把握する必要があります。これは個人の買い手として行うM&Aにおいても同様です。
そして、売り手からビジネスの課題を正確にヒアリングするためには、次のポイントに注意して交渉を行いましょう。
いきなりビジネスの課題をオープンクエスチョンで質問しない
まずは売り手からの信頼を獲得するように務める
そのためには、自らの経歴、知見およびスキルを正確に伝える
その上で、売り手のビジネスを取得した後の計画を伝える
売り手がビジネスを手放す理由を丁寧に確認する
このように売り手からの信頼を獲得した上で、ビジネスの課題をヒアリングし、買い手としてのあなたの知見・スキル・ネットワークでそれを解決できるかを検討してみてください。
売り手に対して的確にシナジーを提案できると、他の買い手よりも交渉を有利に進められる場合もあります。
まとめ
本記事では、M&Aにおけるシナジーについて解説しました。
シナジーとは、複数の要素の交わりによって実現される相乗効果を指す言葉です。M&Aにおいては、買い手と売り手の知見・スキル・ネットワークの相互活用による相乗効果を指します。
M&Aのシナジーは「購買」「生産」「物流」「販売」の4種類に大別できます。「アンゾフの成長マトリクス」も活用しながら、あなたのM&Aにおいて実現できるシナジーを検討してみてください。
また、多くの場合、個人M&Aにおいては、買い手の知見・スキル・ネットワークを用いて、売り手の課題を解決することでシナジーを実現できます。売り手の課題を把握するためには、信頼獲得と丁寧な交渉を心がけ、あなたから積極的にシナジーを提案してみてください。
「個人M&Aなら、M&Acompass」
M&Acompassは、個人M&Aの買い手に対する伴走支援です。これまでM&Aの専門家のサポートが十分に届いていなかった個人の買い手向けの伴走支援であり、個人M&Aの成約を目指すためのM&A戦略立案・案件探しといった初期的な工程からクロージングまでを支援するサービスです。
「M&Acompass」では、毎週さまざまなテーマでセミナーを開催しています。
また、伴走支援の一部を体験していただく趣旨で、オンライン無料体験会も開催しています。個人M&Aに関する疑問や課題に対して、現役のM&Aコンサルタントが提案・アドバイスさせていただきます。オンライン無料体験会もお気軽にご活用ください!
Kommentare